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民主党議員の足を引っ張るオバマ氏
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カナダのオイルサンド(油砂)から採掘された原油をテキサス州の精製施設に運ぶパイプライン「キーストーンXL」の建設を承認する法案が米上院で否決された。法案は共和党と民主党の一部が後押ししてきたが、環境への影響を懸念する民主党の多数派の反対で可決を阻まれたかたちだ。この結果、法案を主導した民主党のマリー・ランドリュー・エネルギー天然資源委員会委員長(59)は12月に行われる上院選挙の決選投票での敗色が強まっている。ランドリュー氏の苦戦には、法案に消極的な態度を取り続けてきたバラク・オバマ米大統領(53)に足を引っ張られた側面もあり、オバマ氏と民主党議員との距離の遠さを浮き彫りにしている。
「今こそ行動を起こすべきときだ」。ランドリュー氏は18日の上院本会議場での最終弁論で、怒りを込めた口調で同僚の民主党議員に支持を求めた。
キーストーンXLは建設工事での雇用増や米国内の精製施設の稼働増が期待されている。このため企業活動の支援に積極的な共和党のほか、石油産業と関わりが深い州の民主党議員らが後押ししていた。
しかしオイルサンドは採掘や精製時に温室効果ガスを多く排出するという問題点も指摘されている。民主党のバーバーラ・ボクサー環境公共事業委員会委員長(74)は審議のなかで、酸素マスクを付けた少女のイメージ写真のパネルを持ち出し、「キーストーンXLは環境に深刻な悪影響を与える。死を招くパイプラインだ」と糾弾していた。投票結果は賛成59対反対41で、可決に必要な60票に1票で届かなかった。共和党は全45議員が賛成したが、民主党からの賛成は約4分の1にあたる14議員に留まった。
ランドリュー氏が民主党内の少数派になってでも法案を主導したのは自身が選挙で苦戦しているからだ。ランドリュー氏の地元のルイジアナ州では4日の中間選挙で上院議員候補がいずれも過半数を獲得できず、州の規定により、12月6日に決選投票を行うことになっているが、世論調査では共和党候補が有利とみられている。
パイプラインの終着点に近いルイジアナ州には経済効果の波及が期待されており、建設への支持は強い。共和党優位の下院はすでに同じ法案を通しているだけに、ランドリュー氏にとって上院での法案可決は当選への絶対条件だった。民主党のハリー・リード院内総務(74)が18日の投票を決めたのも、こうした事情が背景にある。
しかしオバマ氏はランドリュー氏の選挙戦に冷ややかだった。2009年の就任以来、建設承認の先送りを続けてきたオバマ氏は14日、訪問先のミャンマーで「私の立場は変わっていない」と述べ、パイプライン建設に消極的な姿勢を強調。ジョシュ・アーネスト大統領報道官(37)は上院での採決当日、法案について「大統領が支持していないことは確実だ」と述べた。
ランドリュー氏は選挙戦で「オバマ氏の不人気」という逆風にさらされ、「大統領のエネルギー政策は私の政策と違いすぎる」とこぼしたこともある。そのうえ起死回生の一手になるはずのキーストーンXL法案の上院通過でも、オバマ氏からの「妨害」にあったかたちだ。
オバマ氏には「法案が可決しても苦戦しているランドリュー氏が共和党候補に勝つことはないと見切っていた」との思惑があったとの分析もある。ビジネスライクで知られるオバマ氏らしいともいえるが、共和党議員からは「オバマ氏は身内の民主党議員すらとも良好な関係を築けていない」と揶揄(やゆ)する声があがる。
中間選挙で大勝した共和党は上下両院で多数派となる来年からの議会で、改めてキーストーンXL法案を提出すると表明している。下院の通過は確実なうえ、上院でも今回賛成に回った14人の民主党議員のうち9人が新議会でも残るため、すでに53議席を固めている共和党の賛成と合わせて60票超の賛成が得られる可能性が高い。
08年の承認申請から6年も承認が先送りされてきたキーストーンXLについて「ヒトラーを倒すのにかかった時間よりも長くかかっている」と批判し、民主党から賛成に回ったハイディ・ハイトキャンプ上院議員(59)は法案否決後、「数カ月以内に新しい議会で建設計画を実現させることを約束する」と話した。
上下両院で法案が可決されればオバマ氏は拒否権を行使するかどうかの判断を迫られることになり、改めて対応が注目されそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)