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【アメリカを読む】広がる賃上げ 労働力獲得競争が激化

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【アメリカを読む】広がる賃上げ 労働力獲得競争が激化

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3月26日、米アラバマ州バーミングハムのコミュニティーカレッジで演説し、改めて最低賃金の引き上げを求めるバラク・オバマ大統領。会場には、中間層を支援するオバマ政権の政策「ミドルクラス・エコノミクス」の看板も掲げられた=2015年(ロイター)  好調な経済状況が続く米国で賃上げの流れが強まっている。米小売り最大手のウォルマート・ストアーズが2月に従業員の賃金を引き上げると発表したのに続き、3月には同業のターゲットも賃上げを発表。米経済の堅調な拡大を背景にして、労働者の獲得競争が激しくなっているかたちだ。こうした賃上げの流れは昨年以降、最低賃金10.10ドルの実現を目指した動きを加速させてきたバラク・オバマ米大統領(53)にとって思惑通りの展開といえる。ただし今回の賃上げが労働者の生活に与える影響は不透明で、オバマ政権は今後も企業に労働者の待遇改善を求める考えだ。

 ウォルマートが先鞭

 「賃金が上がっているのは良いニュースだ。数多くの家族を助けることになる」。オバマ氏が3月26日、アラバマ州の地域短期大学(コミュニティーカレッジ)での演説で賃上げの流れに触れると、聴衆から大きな拍手が湧き上がった。

 賃上げの流れを強めたのは賃金の安さで労働組合から批判されることの多いウォルマートだった。ウォルマートが2月に発表した賃上げは最低賃金を4月から1時間当たり9ドルとし、さらに来年には10ドルまで引き上げるというもの。ウォルマートにとっては年間10億ドル(約1200億円)の負担増だが、約50万人の従業員が恩恵を受けるという。

 また米メディアは3月、米小売り大手のターゲットが最低賃金を1時間当たり9ドルまで引き上げると一斉に報じた。このほかディスカウント衣料品大手のTJXも6月からの賃上げを発表済みだ。

 賃上げの背景には、景気拡大で失業率が大きく下がるなか、企業間で労働力の獲得競争が激しくなっている事情がある。ターゲットの最高経営責任者(CEO)、ブライアン・コーネル氏(55)は3月5日の金融アナリスト向けの会見で、店頭での接客の質が他社との差別化につながるとし、「賃金の面でも競争力を高くしたい。能力のある人材を集め続けることができる」としていた。

 オバマ氏の思惑通り

 ウォルマートやターゲットの賃上げはオバマ氏にとっては思惑通りの展開だといえる。オバマ氏は昨年、連邦政府の契約企業職員らの最低賃金を10.10ドルとする大統領令に署名するなど、賃上げを求める姿勢をことあるごとに強調してきた。得意の弁舌で世論に呼びかけることで企業に圧力かける狙いだ。また議会では共和党が連邦政府が法律で定める最低賃金(7.25ドル)の引き上げに反対しているが、オバマ氏は今年1月の一般教書演説で「懸命に働いている何百万もの米国民の賃金を上げるために票を投じるべきだ」と共和党に対応を迫っている。

 ただし今回の賃上げの流れが実際に労働者の本格的な生活向上につながるかどうかには不透明さも残っている。米国の労働市場では賃上げペースの遅さに加えて、フルタイムでの勤務を希望しながらもパートタイムの仕事しか見つけられない労働者が多くいることが問題となっているからだ。

 生活向上は不透明

 米メディアはウォルマートの従業員の中には週40時間の勤務を希望しながらも、実際には20時間程度しかシフトを組んでもらえないといったケースもあることを指摘。米紙ニューヨーク・タイムズの取材に応じた2人の子供を抱える21歳のシングルマザーの従業員は「もっと働く時間を与えてくれない限り、十分ではない」と嘆いている。ウォルマートは年間160億ドル(約1兆9000億円)の最終利益を上げており、労働界からは「まだまだ労働者の賃金に資金をまわす余裕がある」との声も根強い。

 しかし小売業界は今後の賃上げや労働時間の設定については、労働市場の需給関係を見極めながら慎重に検討する考えだ。全米小売業連盟(NRF)はウォルマートの賃上げに際して「市場経済の力を示した」とする声明を発表し、ウォルマートが従業員や顧客、株主の利益を考慮したうえで自主的に賃上げを決めた点を強調。「政府が政治的な意図で企業に賃上げを義務づけることは不必要なうえ、雇用の創出を妨げる」としている。

 一方、オバマ氏はアラバマ州での演説でも改めて最低賃金引き上げを求めており、政府の介入を嫌う産業界との摩擦は続きそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

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