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【アメリカを読む】利上げ時期 頭悩ませるFRB議長
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5月6日、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事(右)と対談する米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長。席上、株価の割高さに言及し、バブル発生への警戒感を示した=2015年、米国・首都ワシントンのIMF本部(ロイター) 米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長(68)が現在のゼロ金利状態からの利上げ開始の時期に頭を悩ませている。イエレン氏は景気回復の実態を弱気にとらえ、利上げに慎重な立場をとるハト派。しかし6日には株価水準の高さに警戒感を示し、利上げ開始への地ならしを進めたいという思惑ものぞかせた。8日に発表された4月の雇用統計は明確な復調を示しており、利上げの判断を迫られる時期が刻々と近づいていることは間違いない。ただし寒波の影響を受けた1~3月期に足踏みをみせた米国経済には不安要素も山積しており、利上げ開始時期について明確な答えをはじき出すことは難しいのが現状だ。
「現時点での株価水準は一般的にみて極めて割高だ。潜在的な危険がある」。イエレン氏は6日、ワシントン市内で行われた国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)との対談で、米国株式市場の現状について、将来的なバブルの発生に警戒感を示した。
イエレン氏が株価の水準について言及することは珍しい。イエレン氏は「金融市場の安定性に対するリスクは増えていない」とフォローも入れたが、市場では「イエレン氏は利上げ開始に向けた下準備を進めている」との見方が拡大。この日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は前日比86.22ドル安となった。
イエレン氏は2014年3月のFRB議長として初めての記者会見で、発言が早期のゼロ金利解除を示唆したと受け止められて以来、市場に言質を与えない慎重な発言を続けてきた。しかし今回は利上げ開始時期をめぐる判断材料が複雑さを増すなか、思わず口をすべらせてしまったかたちだ。
堅調な拡大を続けてきた米国市場は4月29日に発表された1~3月期の成長率が年率換算で前期比0.2%となり、14年10~12月期の2.2%から大きく減速した。寒波や西海岸の港湾での労働争議による物流の乱れなどが要因で、最短で6月にも見込まれてきた利上げ開始の可能性は一気に小さくなったとみられている。
一方、5月8日に発表された4月の雇用統計は堅調な結果だった。景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数は22万3000人増で、20万人の大台を2カ月ぶりに回復。米国経済が1~3月期の足踏みから抜け出したとの印象を強めた。
FRB内でも米国経済の堅調さに注目する声が上がっている。シカゴ連銀のチャールズ・エバンス総裁(57)は7日、米メディアとのインタビューで4~6月期の成長率は3%まで回復するとの見方を強調。6月の連邦公開市場委員会(FOMC)も含め、「今後FOMCを開くごとに政策金利について話し合うし、利上げ開始のプロセスが始まる可能性がある」と述べた。
ただしイエレン氏の胸中は複雑だ。4月の失業率は5.4%で08年5月と同水準の低さだったが、フルタイムでの勤務を望みながらパートの仕事しか見つからない人の数は08年4月当時より130万人以上多い。6カ月以上の失業者数も約100万人高い水準にとどまったままだ。
さらに4月の賃金上昇率の前年同月比2.2%も、リーマン・ショック前の水準である3%台には及ばない。労働経済学者としての実績でも知られるイエレン氏にとって、景気回復の恩恵が労働者の生活改善に結びついていない実態は無視できないものだろう。
またドル高基調や原油安が物価を引き下げている事態も見逃せない。2月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年比0.33%増で、目標とする2%からはほど遠いのが現状だ。エネルギーと食料品を除いたコアでも1.37%増で、物価上昇率が2%に近づくと判断できる「合理的な確信」が得られているとは言い難い。
FRBは米国経済が中期的には1~3月期の低迷から抜け出していくというシナリオを描いており、4月の雇用統計の好調さや4~6月期の成長率への回復期待はそうしたシナリオと一致しているといえる。ただし利上げ開始に至るまでは数多くのハードルが残っていることも事実で、利上げ開始時期をめぐるイエレン氏の悩みは今後も深くなりそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)