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科学
【Message from the Ocean】(9)バハマ 「人食いザメ」は本当に怖いのか
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草原のような海草の上を優雅に泳ぐタイガーシャーク=2014年3月5日、バハマ(越智隆治さん撮影) 日本では、「人食いザメ」と恐れられている「タイガーシャーク」(イタチザメ)。他のサメたちより、ひと回りもふた回りも大きな体格に、縦に走るトラ模様が特徴のこのサメが姿を見せると、一瞬にしてその場に緊張感が走る。
しかし、ここにいるダイバーたちは皆、このサメから逃れようとするのではなく、逆に向こうが接近してくれることを望んでいる。できることなら、ぶつかってきてもらいたいと願っているくらいだ。
10年前までなら、考えられなかった光景だろう。しかし、今ではこのタイガーシャークと泳ぐダイビングは、欧米人ダイバーを中心に人気のダイビングとなっている。
場所は、太平洋のバハマ連邦共和国海域。私が毎年夏にイルカと泳ぐ海でもある。冬の時期が、このタイガーシャークダイビングのベストシーズンだ。
水深5、6~10メートル程度の浅い砂地の海底に、サメたちは集まってくる。
魚の切り身をすり潰してスープ状にしたものを入れた容器に、ポンプで海水をくみ上げて循環させて、それをホースで海に流し続ける。そして、船尾には、ロープでくくり付けた餌付け用の魚の切り身が詰まったカゴを海中に沈める。あっと言う間に、魚やサメたちが群がってくる。
最初に姿を見せるのは、レモンシャークやカリビアンリーフシャークと呼ばれるサメたちだ。しかし、ダイバーの目的はそんなサメたちではない。それらのサメでも、2メートル以上はあるのだが、慣れてくると、「ただの雑魚」にしか見えなくなってくる。しかし、油断は禁物だ。少ないとはいえ、過去にこれらのサメに噛(か)まれて大けがをしたダイバーもいないわけではない。
≪冒険心と勇気 新たな世界に踏み出して≫
そんな危険を冒してまで、なぜこんなダイビングをやりたいと思うのか? 自分もすでに5年も続けて、タイガーシャークダイビングを行うクルーズに乗船している。怖いもの見たさか? スリルを求めたいからか?
どちらも正解だとは思うのだが、本当は「人食いザメ」と呼ばれるサメが、本当に怖いものなのか? それを確認したかった。自分たちの世代はサメというと、映画「JAWS」のイメージが強い。ダイビングを始めた頃は、どんなサメでさえ、恐れていたが、今ではほとんどのサメが、こちらが危害を加えない限りは襲ってこないことを学んだ。
それに、いざ予期せぬ場面で、こういうサメに対峙(たいじ)したとき少しでも冷静に対応できる経験を積んでおきたかったというのもある。実際、素潜りでクジラやイルカを撮影していて、たまたまタイガーシャークに遭遇したことも何度かある。そんなときは腹を決めるしかない。以前は恐怖心で心臓がバクバクして逃げ出したくなったこともある。
今では、逆にそんなサメたちをカメラを持って追いかけてしまうくらいになった。サメもえたいの知れない生き物が接近してくるのは、どうやら怖いらしく、ほとんどの場合、こちらから接近を試みると逃げてしまうことが多い。そういうことも経験から学んだ。
タイガーシャークと泳ぐダイビングは、最近では、日本人ダイバーにも徐々に浸透しつつあり、自分がチャーターするクルーズへ参加したいと希望する日本人も年々増えてきているようだ。
この海域で見られるのは、タイガーシャーク、レモンシャーク、カリビアンリーフシャーク、ナースシャーク、それに、グレートハンマーヘッドシャーク(オオシュモクザメ)など。グレートハンマーヘッドシャークも人気のサメだが、臆病で、通常はあまり近づいてこない。しかし、餌付け慣れしたグレートハンマーたちが、目の前まで姿を見せてくれる。
「サメ=人食い」と思い込んでいる人には想像するだけでも恐ろしい体験だが、ルールを守ってほんの少しの冒険心と好奇心と一歩踏み出す勇気があれば、今では誰でも楽しめる。しかし、今では人気となり過ぎてクルーズの予約は2年先まで埋まっているというから驚きだ。(写真・文:海洋フォトジャーナリスト 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS)