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科学
【USA! USA!】(14)フロリダ州 温水求め集合 マナティーと泳ぐ
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海底の水草を食べながら、時々息を吸うため水面に顔を出すアメリカマナティー=2014年12月6日、米フロリダ州クリスタルリバー(早坂洋祐撮影) メキシコ湾に面したフロリダ半島北西部の町「クリスタルリバー」。早朝暗いうちに入り江へと静かにボートを出す。ウエットスーツに着替え、定刻の午前7時と同時に水温20度ほどの冷たい水へと入る。水中をのぞき込むと、褐色の水草に覆われた薄暗い水の底に、体長3メートルほどの丸々とした灰色の巨体が何体も横になっていた。絶滅危惧種として知られる海洋哺乳類のアメリカマナティーたちだ。寝ていても呼吸のため約15分に1回水面に顔を出すが、睡眠中にやってきた訪問客にはまったく興味なさそうに、再び水の底へと沈んでいった。
フロリダ半島からメキシコ湾、カリブ海にかけて生息するアメリカマナティー。人魚のモデルとも言われるが、体重は1トン近くにもなる丸い巨体とうちわのような尾びれ、シワシワの顔は愛嬌(あいきょう)たっぷり。沿岸部の浅瀬や河口などに生息し、水草のアマモやホテイアオイなど食べる草食性の哺乳類だ。
温かい海に住むマナティーたちは寒さにからきし弱い。太っているように見えるが厚い脂肪層はなく、水温が20度を下回ると弱って死に至ることもある。
半島西海岸のクリスタルリバーやホモサッサスプリングスでは、湖や川の底から水温が22度ほどの温かい湧き水が出る。11月から3月にかけて、この温水を求めマナティーたちが集まり、全米でも有数のマナティーの観察ポイントになっている。そして、細かい規則が定められたクリスタルリバーだけが、マナティーと一緒に泳ぎ、間近で観察ができる場所なのだ。
≪独自ルール 保護と観光の共存探る≫
アメリカマナティーたちが住むフロリダ半島は北米大陸南東部から南南東へと突き出し、大西洋とメキシコ湾を分ける長さ500キロほどの大きな半島だ。気候は亜熱帯に属し、ほとんどが湿地帯のため多種多様な動植物が観察できる。
半島南部に広がるエバーグレーズ国立公園は、世界自然遺産とラムサール条約に登録される6100平方キロの広大な湿地帯だ。泥炭層の浅い湿地にはアシのような草が生い茂り、ワニの仲間のアリゲーターや、フラミンゴやトキなどの水鳥たちが暮らす自然の楽園となっている。しかし、都市部の人口増加で周辺部の湿地帯が農地化。ハリケーンの被害も重なって環境は悪化し、現在は世界遺産の危機遺産リストに登録されている。
マナティーたちの生きるフロリダ半島各地の環境も良いとはいえず、国際自然保護連合は絶滅危惧種に指定している。もともと先住民族が食肉としていたが、ヨーロッパからの入植で肉だけでなく革や油目的の乱獲が進んで個体数が激減。その後、環境意識の高まりとともに連邦政府や州政府はさまざまな法律を制定して保護している。
フロリダ周辺の個体数は1970年代には1000頭ほどだったが、現在は5000頭ほどに回復したとされる。だが、2010年には寒波や病気などで約700頭のマナティーが死亡したことをフロリダ州の野生動物保護当局が発表。さらなる個体数の減少も懸念されている。
フロリダ州クリスタルリバーには、温かい湧き水で越冬するため毎年300頭ほどのマナティーが集まる。入り江の一部には法律で人間の立ち入りが禁止された「聖域」もある。そんな保護地区は、マナティーを間近で見られる場所として年間15万人が訪れる観光地でもある。地元のダイビングショップでガイドをするリック・トゥーンさんは「ここはマナティーと一緒に泳げる数少ない町です。『マナティーを追いかけない』『むやみに触らない』などのルールが厳しく決められていてます」と話す。記者も事前にビデオを見て、「ストロボを使わない」などの撮影ルールを確認してから取材にあたった。
しかし、周辺は水辺の住宅地で、人とマナティーの生活環境は重なる。実際、船のスクリューで肌を傷つけられた個体も確認できた。寒波や病気以外で多い死因は、船との衝突事故だという。船の速度を制限する法律もあるが、より強い保護を訴える保護団体もある。地元の観光業者らはエコツーリズム協会を設立。マナティーに負担をかけない独自の観察ルールを作り、街のシンボルでもあるマナティーたちとの共存を探っている。(写真・文:写真報道局 早坂洋祐/SANKEI EXPRESS)