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科学
【Message from the Ocean】(7)メキシコ セノーテ 暗闇を抜けると「光のカーテン」
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石灰地層が作る天然の井戸水。この世のものとは思えない幻想的な光景が広がる「セノーテ・チキンハ」=2012年7月31日、メキシコ・ユカタン半島(越智隆治さん撮影) 暗黒の水中を抜けてきた僕の目の前に、まばゆいばかりの光りのカーテンが広がった。海中で静かに揺らめきながら、暗黒と光明の境をはっきりと分ける。まるで命にパワーを充電するエネルギーに包まれるように、全身を光に浸して、その源である太陽を見上げる。そして、そこから発散されて、水中をキラキラと揺らめかす光のラインに、しばらくの間見入ってしまう。
穏やかで、静寂な空間。レギュレーターから吐き出す泡が、水面を揺らして、そこに映し出された虚像を消してしまうことすら、もったいないと感じて、ギリギリまで呼吸することを我慢してしまっていた。
この世に、こんな世界があるなんて。僕は感動しながら光のカーテンに包まれながら、またゆっくりと暗闇へと潜行を開始した。暗黒があるからこそ、この光明がより価値のあるもののように思える。
セノーテは、サンゴ礁が隆起してできた天然の井戸のことだ。中南米のユカタン半島全域で見られる。山のないユカタン半島では、川もなく、雨水が地下に浸透し、長い年月をかけて石灰岩が侵食されて、地下水脈が形成された。地底の川となり、ある部分がさらに侵食され、陥没して地表に現れて、天然の泉となった地形のことを言う。
川も湖もないユカタン半島北部低地では、マヤ文明時代から主要な水源として、多くの都市がこのセノーテを中心に栄えた。
≪「天然の井戸」独り占め 至福の時≫
ユカタン半島には、4000とも5000とも言われる数のセノーテが存在しているが、その中でも半島中東部のプラヤデルカルメンからトゥルムの間に存在するセノーテは、上層部に淡水、下層部に海水がたまり、透明度の高いセノーテが点在している。
このセノーテが、今では、死ぬまでに一度は訪れたい絶景の一つとして、一般観光客やダイバーに注目を集めている。
日本で有名なのは、グラン・セノーテ。ダイバーだけでなく、一般観光客もスノーケルでこの光のカーテンを楽しむことができる。
気にいっているのは、ククルカンやタージマハなどのダイバー中心のセノーテだ。人気のセノーテは、週末などのピークシーズンには観光客やダイバーでごった返し、それだけで神秘性を失ってしまう。
だから、自分は極力観光客やダイバーの少ない時期や時間帯を狙って潜りに行くようにしている。誰にもいないセノーテに一番乗りし、透き通るような水をたたえ、光のカーテンに包まれる。これほど至福な時はないというほど癒やされる。(写真・文:海洋フォトジャーナリスト 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS)