SankeiBiz for mobile

【Message from the Ocean】インド・アンダマン諸島 優雅な「名優」に会いたくて

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの科学

【Message from the Ocean】インド・アンダマン諸島 優雅な「名優」に会いたくて

更新

映画にも登場した63歳のゾウ、ラジャン。元々は林業に従事して、木材運搬の労を担っていたという=2010年3月25日、インド・アンダマン諸島のハブロック島(越智隆治さん撮影)  まるで映画の中の幻想的な一場面にでも迷い込んでしまったかのような情景が眼前の海中に広がっていた。インドゾウが海の中を泳いでいる。スローモーション映像でも見ているかのように、ゆっくりと、しかし確実に4本の足で水をかいて。顔は頭の先まで全て海中に没し、時折鼻先だけを海面に出して呼吸をしている。傍らには、常に寄り添うように、ゾウ使いのインド人が泳いで指示を出したり、ときには、海中でバランスを崩しそうになるゾウの牙の上に乗っかって、バランスを取ったりしている情景が滑稽さを誘っていた。

 「The Fall」(邦題「落下の王国」、ベルリン国際映画祭最優秀長編映画青少年映画部門受賞)という映画をご存じだろうか。ストーリーよりも映像美が評価されたこの映画のワンシーンに、このゾウが登場する。この映画が上映された後、僕はこのゾウに会いたくて、インドの東に位置するアンダマン諸島を訪れた。

 ≪63歳ラジャンさん、海の中で悠々と≫

 アンダマン諸島は、インド洋のベンガル湾南部に位置する、インドの連邦直轄領。北緯10度線の北側が大小302の島々からなるアンダマン諸島、南側が19の島々からなるニコバル諸島。インド政府が国防上の理由から外国人の立ち入りを制限している。中心地はポートブレアだ。

 映画にも出演したこのゾウの名前は「ラジャン」といい、今年で63歳になる。インドゾウの寿命は約60年から80年ということなので、人間で言うと、シルバー世代のゾウなのだそうだ。もともとこの地で林業に従事していて、2002年までは、木材運搬の労を担っていた。その頃は、ラジャンさん(親愛の情と年上という敬意を込めて、さんと敬称で呼ばせてもらう)以外にも海中を泳げるゾウがいたそうだが、今では、このラジャンさんだけが「泳ぐゾウ」として、このアンダマン諸島のハブロック島にいて、余生を送っている。

 ジュゴンやマナティの先祖は、もともとゾウに近い陸上動物だったといわれている。確かに皮膚の感じとかは、似ているし、マナティの前足には、ゾウと同じようなひづめの痕が残っている。

 ゆっくりと海中を泳ぐラジャンさんを見守りながら、海に戻っていく生物の進化の過程を空想してみた。(写真・文:海洋フォトジャーナリスト 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS

 ■おち・たかじ 1965年、神奈川県生まれ、千葉県浦安市在住。慶応義塾大文学部卒。産経新聞社写真報道局を経てフリーの海洋フォトジャーナリストに。スキューバダイビングと海の総合サイト「ocean+α(オーシャナ oceana.ne.jp)代表。大物海洋生物をテーマに世界中の海を舞台に撮影し、これまでのダイビング数は7000本。「海からの手紙」(青菁社)、「WHALES! クジラ!大写真集」(二見書房)など著書多数。個人のウェブサイトは、INTO THE BLUE(takaji-ochi.com)。バハマでタイセイヨウマダライルカと泳ぐクルーズなど世界中の大物海洋生物と泳ぐツアーを企画している。

ランキング