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科学
【Message from the Ocean】はにかむ子クジラ 思わず笑顔 トンガ・ババウ諸島
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海面で息継ぎをするため浮上した子クジラは、ひとしきり海面で遊ぶと、海中に留まり、身体を休める母親の元に戻って来る=2010年9月14日、トンガ・ババウ諸島(越智隆治さん撮影) 目の前、水深5メートルほどのところに、ザトウクジラの母子が、じっと動かずに留まって身体を休めている。子クジラは、水面まで浮上してきて、ひとしきり遊んだかと思うと、またゆっくりと潜降して、静かに胸びれを動かす母クジラのおなかの下に隠れるように潜り込んだ。しばらくすると、こちらの様子を伺うように、おなかの下から顔をのぞかせた。そのしぐさに、思わずマスクの中の顔がほころんだ。
母クジラの体長は15メートル、子クジラでさえ5メートルはあるのに、その愛くるしさは、2~3歳の人間の子供が、母親の後ろに隠れて顔をのぞかせながら、こちらに向かってはにかんでいる様子となんら変わらない。僕は、彼女たちを驚かさない距離を保ちながら、「こわくないよ~」と心の中で、子クジラに話しかけながら、水面に浮いて静かに撮影を試みた。
ここは、南太平洋にあるトンガ王国、ババウ諸島の海の中。日本の小笠原や沖縄では、北極海から回遊してくるザトウクジラが見られるシーズンは、1月頃から3月頃までだ。ザトウクジラは、北半球と南半球にそれぞれ分布していて、交わりがない。南半球にあるトンガ王国でも、毎年、冬の時期、7月頃から9月頃、南氷洋から北上してきたザトウクジラが姿を見せて、交尾、出産、子育てを行う。
≪のんびり親子 目の前でリラックス≫
多くの国や地域で、ザトウクジラに水中で接近することが厳しく規制されている中で、トンガでは国が許可を出して、観光客にホエールスイミングを行っている。
10年以上前から、このトンガのババウ諸島に通い、ザトウクジラの親子をテーマに撮影を行っている。それまで、さまざまな海でザトウクジラの撮影にチャレンジしては、海中でなかなか接近するのが難しいと思っていたザトウクジラ。しかし、初めてこの海域でザトウクジラの親子に遭遇したときには、逃げることもなく、こちらの行動をほとんど気にすることもなく、目の前で穏やかに身体を休めて動かないでいる姿に驚きを隠せなかった。
以来、この海のクジラたちに魅了されて、毎年この海を訪れて、撮影を行っている。今年も8月から9月にかけて、この海を訪れて、ザトウクジラたちの撮影を行う予定だ。
今年は、どんな親子クジラに出会えるのだろうか。今からわくわくする。(写真・文:海洋フォトジャーナリズム 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS)
越智隆治(おち・たかじ)さんは10年以上にわたってトンガの親子クジラを撮影していますが、ある年に遭遇したザトウクジラの親子との交流が、写真絵本「まいごになった子どものクジラ」(越智隆治著/小学館発行、本体1300円+税)になっています。また、この写真絵本の一部が抜粋され、来年2015年から小学校2年生が使う道徳副読本「どうとく2 みんな たのしく」にも掲載されることになりました。3ページにわたって写真5枚を使って紹介しています。