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科学
【アラスカの大地から】20年前 「原点」の1枚
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初めてアラスカで撮った野生動物。カメラ目線でポーズまでとってくれているようだ=1994年1月、米アラスカ州(松本紀生さん撮影) 1枚の写真がある。20年前に初めてアラスカで撮ったものだ。氷点下40度の森に暮らすリス。決定的瞬間にはほど遠いが、自分にとっては大切な写真のひとつだ。
カメラの知識も経験もなかった。アラスカを撮る写真家になると決めて現地に渡ったものの、どうすれば写真家になれるのか、見当もつかなかった。
誰かに習うつもりはなかった。「写真は己の感性が生む芸術。人に教わるものではない」と、頑なに決めていたのだ。とにかく練習しかない。森に入り被写体を探すと、寒気を切り裂くようにリスが走り回っていた。
降り積もった雪に掘ったいくつもの穴と穴の間を、忙しそうに行き来する小さな命。その弾ける生命力に、無意識のうちにレンズを向けていた。
だが野生動物はそれほど従順ではない。近づくととっさに穴に身を隠し、一切姿を見せてくれなくなった。思えばこの小さな試練が、この地で自然と向き合うことの難しさを暗示していたのである。
≪「撮りたい」想いは変わらない≫
ない知恵を絞って対策を練った。森といえども内部は雪の白一色だ。同色の布を被って自分をカモフラージュしよう。レンズが出せるだけの穴を開けたシーツを持って、再び森に出かけた。
効果はわずかにあった。リスは警戒しながらも姿を見せてくれるようになった。1時間に1度ほどであるが…。
我ながらよくやったと思う。あの寒気の中、安価な防寒着で雪上に座り、来るとも知れないシャッターチャンスをひたすら待つとは。ただ不思議と辛抱しているという意識はなかった。プロの写真家でもないのに「撮りたい」という想いだけはほどほどにあったのだろう。
20年経った今でも、やっていることは基本的に変わっていない。独り原野でチャンスを待ち続ける-。行動範囲が森の一点からアラスカ全土に広がり、撮影期間も数時間から数カ月に延びはしたが、「撮りたい」という熱はあの頃のままのようである。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS)
写真家の松本紀生さんが、巨大スクリーンにアラスカの大自然や動物たちの写真を映し出す「フォトライブ」を開催します。豊潤な苔に覆われた温帯雨林やマッキンリー山上空に降り注ぐオーロラ、躍動するザトウクジラに原野を埋め尽くすカリブーの群れ…。ダイナミックな映像をバックに撮影時のエピソードを散りばめながら松本さんのユーモアあふれるトークであなたをアラスカへと誘います。