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【Message from the Ocean】(6)グレートバリアリーフ ミンキーに会える 「冬」のひととき

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【Message from the Ocean】(6)グレートバリアリーフ ミンキーに会える 「冬」のひととき

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ミンククジラの中でも最も小さいドワーフミンククジラに遭遇することができるオーストラリア・グレートバリアリーフの海(越智隆治さん撮影)  船上からクジラを見るホエールウォッチングから、クジラと一緒に泳ぐことができるホエールスイミングへと、海洋哺乳類との遭遇はよりマニアックなものが人気になってきている。

 自分も、イルカをはじめ、マナティやアシカ、クジラなど多くの海洋哺乳類と泳ぐツアーを開催しており、多くの人が参加してくれる。これは、日本だけでなく、世界的なブームといっても良いだろう。

 オーストラリア北東部にある世界自然遺産の一つ、グレートバリアリーフ(GBR)でも、そんな海洋哺乳類の一種と海中で遭遇できる。ヒゲクジラ亜目に属するミンククジラだ。

 ミンククジラは、さらに3亜種に分類されていて、GBRで遭遇できるのは、その中でも一番小さいドワーフミンククジラ(ミンキー)だ。野生動物保護の目的で、海洋哺乳類との接近を厳しく制限し、場合によっては罰金や逮捕までされてしまうオーストラリアでは珍しいことだ。

 南半球の冬の時期、それも6月後半から7月初めまでのかなり短い期間、ミンキーたちはGBRの「リボンリーフNo.10」という海域で、かなり高確率で遭遇できる。

 ただし、水中遭遇可能なのは、グレートバリアリーフ・マリーンパーク・オーソリティー(GBRMPA)より特別な許可を得たダイビングクルーズ船のみ。その船には、シーズン中ジェームスクック大学(クイーンズランド州タウンズビル)に本部のあるミンキーホエールプロジェクトのボランティアスタッフが乗船して、遭遇したミンキーの個体識別調査などを行うほか、乗客たちが、しっかりルールに沿ってスイミングを行っているかを監視する役目も担っている。

 ≪研究者とダイバー 理想的な協力体制≫

 通常、こうしたリサーチと一般観光客(ここではダイバー)とは一線を画すことが多いのだが、ここではリサーチャー(研究者)とオペレーター(ダイビング事業者)が協力体制を取っていることに興味が湧いた。

 ボランティアのリサーチャーは、大学の学生、しかも女性がほとんどで、彼女たちは「ミンキーガール」と呼ばれ、親しまれていた。

 個体識別などの他、ダイバーにミンキーのリサーチについてレクチャーしたり、乗客らが撮影した水中写真を寄付してもらい、個体識別に利用したり、研究費用の寄付なども募っている。

 昨シーズンには、4頭のミンキーにサテライトタグを装着し、未解明のGBRシーズン後のクジラたちの行動を追跡することに一部成功した。1頭のオスに装着したサテライトタグが90日間追跡可能で、オーストラリア東海岸を南下して、タスマニアを超えてGBRから6000キロも下った場所まで移動したことが確認できた。今シーズンの末には、15個体にサテライトタグを装着して、さらなる追跡調査を行っている。

 こうした調査の資金の一部は、クルーズに乗船した観光客からの寄付金などから賄われているわけだ。調査研究とダイビング事業が一体化した、一つの理想的なあり方を見ることができた興味深いクルーズだった。(写真・文:海洋フォトジャーナリスト 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS

 ■おち・たかじ 1965年、神奈川県生まれ、千葉県浦安市在住。慶応義塾大文学部卒。産経新聞社写真報道局を経てフリーの海洋フォトジャーナリストに。スキューバダイビングと海の総合サイト「ocean+α(オーシャナ oceana.ne.jp)代表。大物海洋生物をテーマに世界中の海を舞台に撮影し、これまでのダイビング数は7000本。「海からの手紙」(青菁社)、「WHALES! クジラ!大写真集」(二見書房)など著書多数。個人のウェブサイトは、INTO THE BLUE(takaji-ochi.com)。バハマでタイセイヨウマダライルカと泳ぐクルーズなど世界中の大物海洋生物と泳ぐツアーを企画している。

 【取材協力】

クィーンズランド州政府観光局、Deep Sea Divers Den、Dive 7Seas、TUSA Dive

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