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【アラスカの大地から】大空のスナイパー ハクトウワシ

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【アラスカの大地から】大空のスナイパー ハクトウワシ

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幼鳥は体毛がまだらであるが、眼光の鋭さは早や成鳥並みである=2009年7月22日、米アラスカ州(松本紀生さん撮影)  海から森を見渡し、白い点が見えたらそれは大抵ハクトウワシである。樹齢数百年、高さ40メートルはあろうかという大木のてっぺん付近に、彼らは鎮座している。乱獲や薬剤などの影響で生息数が一旦激減したが、その後の保護政策により、今では南東アラスカでこの鳥を見かけない日はないほどだ。

 羽を広げた長さは2メートル以上。風格漂うそのたたずまいは、アメリカの国鳥としての威厳すら感じさせる。

 高みから見つめるのはフィヨルドの海。1キロ以上離れた場所の獲物をも見分けるといわれるその視力で、海面近くを漂う魚を探すのだ。

 ロックオン! ふわりと飛び立った後はまるで吸い込まれるように獲物へと向かう。海面すれすれを飛びながら、一瞬だけ足を伸ばし、鋭い足で獲物を連れ去る。

 アラスカの空を支配する洗練されたスナイパー。それがこのハクトウワシの本来の姿なのである。

 ≪思わぬ災難もあくまで優雅≫

 ところが、いつもそううまくいくわけではない。何が起こるか分からないのが自然界。精悍(せいかん)な面構えが思わぬ災難にゆがむこともあるのだ。

 そのハクトウワシは翼を広げ、風を切り裂いていた。数秒後には獲物となるはずの魚へと一直線。あとはいつものように魚をわしづかみにし、飛び去るだけである。

 足を伸ばす。と、白い頭が海へと突っ込んでしまった。そのままもんどりうって全身が海水に浸り、まるで溺れて助けを求める人間のように羽でバタバタと海面をたたき始めたのである。見ているこちらも何が起こったのか分からない。それほど珍しい失態だった。どうやら捕まえた魚が大きすぎたようだ。重すぎて飛び立てず、海に落ちてしまったのだ。

 その後の彼の行動を一生忘れることはないだろう。なんと彼は泳ぎ始めたのだ。岸までの100メートル近くを延々と。しかもなんとバタフライで! ビデオも撮ったから嘘ではない。

 水没しても優雅に海面を切り裂くハクトウワシ。さすが国鳥である。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS

 ■まつもと・のりお 写真家。1972年生まれ。愛媛県松山市在住。立命館大中退、アラスカ大卒。独学で撮影技術やキャンプスキルを学ぶ。1年の約半分をアラスカで過ごし、夏は北極圏や無人島、冬は氷河の上のかまくらでひとりで生活しながら、撮影活動に専念する。TBS「情熱大陸」で紹介される。著書に「原野行」(クレヴィス)、「オーロラの向こうに」「アラスカ無人島だより」(いずれも教育出版株式会社)。日本滞在中は全国の学校や病院などでスライドショー『アラスカ・フォトライブ』を開催。

 【ガイド】

 松本紀生さんは、2014年12月12日(金)~18日(木)、東京都港区赤坂9の7の「富士フイルムフォトサロンスペース2」で写真展「アラスカ原野行」を開催。20年にわたって撮影したアラスカの自然やオーロラ、クマやクジラなど野生動物の写真約40点を展示する。午前10時~午後7時、入場無料。13日午後2時からは松本さんのトークショーが開催される。問い合わせと申し込みは(電)03・6271・3350フジフイルムスクエアまで。先着で150人。matsumotonorio.com

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