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【アラスカの大地から】ベニザケ帰郷に「巨大」な試練

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【アラスカの大地から】ベニザケ帰郷に「巨大」な試練

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サケを餌とする海岸沿いのヒグマは、内陸部の個体よりも大きな体をしている=2011年7月12日、米アラスカ州(松本紀生さん撮影)  川が沸騰しているかのようだった。バシャバシャと激しく上がる水しぶきで、川面全体が沸き立っていたのだ。着火の主は無数のベニザケだった。

 アラスカ南西部に位置するアラスカ半島。海と緑に囲まれたこの一画に、サケたちであふれかえる川がある。

 幅はわずか5メートルほど。水深は数カ所の深みを除くと20センチ前後だろうか。水はもちろん、これ以上ないほど清らかに透き通っている。

 満潮の2時間ほど前になると海と川の境目にサケが集まり始める。海から川へ押し寄せる潮に乗って、浅い河口を遡(さかのぼ)るためである。

 もう海は魚群で埋め尽くされている。おびただしい数のベニザケたちが遡上(そじょう)のときを今か今かと待ち構えているのだ。浅瀬で行き詰まるサケの群れを目がけて、アザラシが弾丸のように突進していく。これほど捕らえやすい獲物も珍しいだろう。

 ≪野生の本能 川を沸き上がらせる≫

 1匹、また1匹と、意を決したサケが遡上(そじょう)を始める。いよいよ生命のクライマックスへと突入するのだ。

 しかしさらなる試練が待ち構えている。サケを餌とするヒグマだ。

 幅も狭く水深も浅い川を通るサケを捕らえるのは、クマにとってたやすいことだ。競走馬よりも早いといわれる身のこなしで、獲物を次々と捕らえていく。

 遡上のピークになると、川岸でサケをむさぼるクマの目の前に、川からはじき出されたサケが跳んでくる。クマは一カ所にどっしりと腰を下ろし、回転ずしのように次から次へとやってくるサケを待つようになるのだ。

 それでもなお多くのサケは激流に挑み遡上を完遂(かんすい)し、産卵を終える。短い命を燃やし尽くすような生きざまは、野生の本能のなせる業だろうか。うらやましく思う。

 その怒濤(どとう)のごとき生命力の表れが、あの沸き上がる川なのだろう。(写真・文:写真家 松本紀生(のりお)/SANKEI EXPRESS

 ■まつもと・のりお 写真家。1972年生まれ。愛媛県松山市在住。立命館大中退後、アラスカ大卒。独学で撮影技術やキャンプスキルを学ぶ。年の約半分をアラスカで過ごし、夏は北極圏や無人島、冬は氷河の上のかまくらでひとりで生活しながら、撮影活動に専念する。2004年夏、マッキンリー山登頂。著書に「オーロラの向こうに」「アラスカ無人島だより」(いずれも教育出版株式会社)。日本滞在中は全国の学校や病院などでスライドショー「アラスカ・フォトライブ」を開催。matsumotonorio.com

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