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【田中大貴アナの「すぽると!」こぼれ話】「火の玉ストレート」再び 藤川球児

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【田中大貴アナの「すぽると!」こぼれ話】「火の玉ストレート」再び 藤川球児

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四国アイランドリーグplusの愛媛戦に登板した高知の藤川球児(きゅうじ)投手=2015年6月27日、高知県高知市の高知球場(彦野公太朗撮影)  「故郷に帰って野球をやります」。2年ぶりのインタビューは衝撃の言葉から始まりました。同い年の藤川球児投手。34歳。今季途中、米大リーグのレンジャーズから予期せぬ戦力外通告を受け、帰国していました。

 これまで日本人大リーガーがシーズン中に日本に戻って移籍先を探した前例はなく、野球界全体がその動向を注視。その中で、在阪スポーツ紙を中心に報道が先行していた古巣・阪神への復帰ではなく、他のプロ球団でもなく、右腕は独立リーグ「四国アイランドリーグplus」の高知ファイティングドッグスから再出発する道を選んだのです。

 メジャーで厳しい現実

 猛虎の絶対的守護神だった藤川投手の渡米は2013年のことでした。カブスでの最初のスプリングキャンプには、私も取材に足を運び、オープン戦での初セーブも見届けました。「心身ともに、まだ、もっと良いもが出せるよ」。その言葉を聞いたときに想像した前途とは、まったく違う足跡を歩んでいくことになりました。

 1年目の途中に日本時代からの疲労蓄積なのか、右肘が悲鳴を上げ、靭帯(じんたい)断裂。メスを入れました。カブスでの2年間はほとんど満足な働きができず、今季から新天地のレンジャーズに活躍の場を求めました。しかし、調子が上がらないまま、開幕間もない5月に戦力外通告という厳しい現実が待っていました。

 「応援してくれる人が一人でもいるなら投げる、必要としてくれる方がいるなら腕がちぎれてもいいから腕を振る」。これが、取材を続ける中で感じた藤川球児という人間の生き方でした。果たしてメジャーの球団は、チームの首脳陣は、彼のそんな信念を理解できているのか。私の答えは「NO」でした。おそらく、藤川投手の胸中も同じだという確信があります。

 必要とされる場所

 「アメリカは契約社会。投げる場所や条件は契約内容で決まっているようなものなのです。『今、お前が必要だから、ナインが、ファンが待っているから、だからマウンドに向かってくれ』というような雰囲気が感じ取れないケースが多かった。そこに何かやりがいのようなものが心の中に生まれてこなかった…」。インタビューで彼が正直に打ち明けてくれた言葉を聞いて、私自身も納得ができました。

 滑りやすい公式球や日本よりも硬いマウンドとか、けがの影響とか、そんなことがメジャーでの不調の理由ではなかったのではないでしょうか。

 もちろん、彼は一流のアスリートです。結果はすべて受け入れているでしょう。でも私自身は、藤川投手が最も大切にしている感情の部分でのやりがいを感じることができず、「もっと必要とされる場所があるのでは」と考えたことが影響したように思えて仕方がありません。

 「投げる自信ある」

 阪神ファンなら誰もが知っていることですが、彼のプロ野球人生は最初から順風満帆なものではありませんでした。

 1998年秋、「松坂世代」のドラフト1位で阪神に入団しました。しかし、名将・野村克也監督の下でなかなか芽が出ませんでした。定まらないフォーム、肩の故障…。チームも成績が低迷する「暗黒時代」でした。同世代の活躍とは対照的に、彼はプロ入りから6年で背番号が3度も変わりました。

 苦しい時期を乗り越え、彼は2005年のリーグ優勝時にチームに欠かせないセットアッパーとなり、その後に守護神へと駆け上がったのです。そして、苦しい時代に応援してくれたファンや支えてくれた指導者、家族のことを決して忘れていません。感謝の思いが乗り移った剛速球こそが、打者がまっすぐがくるとわかっていてもバットにかすることすらできない「火の玉ストレート」なのです。

 だから想像ができます。彼が高知を選んだのは、必要とされ、応援してくれる人がいるからなのです。そして、もちろん、このままで終わるはずがありません。

 インタビューでは思い切って聞きました。「手術をしてなお、火の玉ストレートは戻ってきますか」。彼は断言しました。「あの直球を投げる自信はあるし、肘も万全。本気の僕をアイランドリーグで表現します」。高知の人たちに背中を押され、もう一度、よりレベルの高い舞台へ戻ってくることを信じています。私だけではありません。彼をたくさんのファンが「必要」としています。「応援」しています。(フジテレビアナウンサー 田中大貴(だいき)/SANKEI EXPRESS

 ■たなか・だいき 1980年4月28日、兵庫県生まれ。フジテレビアナウンサー。2003年慶応大卒、フジテレビ入社。朝の情報番組「とくダネ」を10年間担当し、現在は夜のスポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターなどを務める。小学4年生から野球を始め、慶応時代は東京六大学野球で活躍。モットーは「今を生きる」。

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