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【田中大貴アナの「すぽると!」こぼれ話】「大切な時間」は米で使う 川崎選手の選択

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【田中大貴アナの「すぽると!」こぼれ話】「大切な時間」は米で使う 川崎選手の選択

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5月24日のトロントでのマリナーズ戦に出場した川崎宗則(むねのり)選手。5月22日に今季メジャー初昇格を果たし、3試合に出場したが、わずか3日間で再びマイナーに降格となった=2015年、カナダ・オンタリオ州(AP)  「チェスト!」。メールはいつもこの言葉で締めくくられています。鹿児島の方言らしいです。「さあ行くぞ!」というときは、父親からいつもこの言葉で送り出さてきたそうです。日本時代から大切にしている彼の決まり文句を通じて、遠くアメリカの地からでも驚くほどのエネルギーが伝わってきて、元気にプレーし充実した生活を過ごしていることがわかります。

 米メジャーリーグ、ブルージェイズ傘下のマイナー3Aバファローに所属する川崎宗則(むねのり)選手です。渡米して4年目。3日に34歳を迎えます。そんな彼は今季もメジャーとマイナーのボーダー上で必死に戦っています。ビッグマネーと好待遇で海を渡ったわけではありません。通訳はつかず、個人トレーナーもいません。そんな境地をむしろ楽しむように、アメリカの大地で、アグレッシブに夢を追いかけています。

 明るい性格と前向きさが信条。過去の努力や苦労話を口にすることはほとんどありません。そんな川崎選手が、自らの体験を語る機会が年に1度だけあります。つかの間のオフに率先しておこなっている社会貢献活動でのことです。東日本大震災の被災地や、過疎化などを理由に統廃合で母校がなくなってしまう子供たちのために彼は教壇に立ちます。

 その名も「ムネリン先生の夢授業」。子供たちに自分たちの未来を明るいものにしてもらおうと、自らの人生で得た教訓を子供たちに授業形式で伝えています。アナウンサーとして、一人のファンとして、貴重なその場に足を運びます。

 補欠の「バット引き」時代

 印象的な話がありました。想像もできまぜんが、中学時代の川崎選手は野球が下手で、レギュラー選手が打った後のバットをかたづける「バット引き」が担当の補欠だったそうです。しかし、彼は地元で有名になるぐらいのバット引きを目指したというのです。バッターが打った後、無駄のない動きでいかにバットを素早く拾いに行けるかを意識したと振り返ります。

 実は狙いがあったのです。そのときのダッシュで自らの脚力を鍛えていたのです。1試合に何度も繰り返したベンチから打席までの短いダッシュ。後に球界でも髄一のスピードを誇る選手の土台となり、彼は高校で活躍してプロ入りをつかみ取ったのです。

 さらには、慣れない米国での生活にるいても話していました。

 英語だけでなく、中南米選手とのコミュニケーションのためにスペイン語の辞書も買い、遠征の移動中に勉強していたそうです。球場から戻ると自らの身体を自分で入念にマッサージ。支えてくれる妻がしてくれることも。厳しい環境で戦っていることが想像できました。スター選手のこんなエピソードを直接聞けば、子供たちがやる気になるのは間違いありません。

 森脇コーチの言葉

 シーズンを終え帰国すると、決まって日本球団からオファーが届きます。ある球団の首脳は「そもそも日本球界に残っていれば、残りのプロ生活で20億円以上も稼ぐことができた」と断言します。しかし、彼は首を縦には振りません。「野球をもっとうまくなりたい」。この思いが彼の原動力なのです。マイナー契約でも、年俸がどんなに安くても、彼は挑戦を決してあきらめないのです。

 かつて、彼からこんな話を聞いたことがあります。時間の使い方についてです。ダイエーホークス(当時)に入団して20歳を過ぎたころ、ようやく開幕1軍に手が届きそうなところまできました。しかし、選手層の厚さからかないませんでした。その夜、当時のコーチだった森脇浩司(ひろし)・オリックスバファローズ監督に食事に連れて行かれたそうです。

 「いいか、ムネ。今は悔しくてたまらないだろう。この気持ちを忘れるな。まだお前には実力が足りない。これから先、1つだけ平等なことがある。それは時間だ。365日、24時間、これはすべての人間に与えられた同じ条件だ。この時間をいかに使い、自らを成長させるかに今後の野球人生は左右される」

 この言葉を胸に、彼は時間を大切にし、常勝ホークスの若き正遊撃手へと成長を遂げました。そしていま、平等な時間を米国でのプレーに使うことにしたのです。メジャーリーグはシーズン162試合。長丁場です。現在は3Aの川崎選手が必要とされるときが必ずあるはずです。現地のファンをも熱狂させる「ショータイム」の幕開けが待ち遠しいです。(フジテレビアナウンサー 田中大貴(だいき)/SANKEI EXPRESS

 ■たなか・だいき 1980年4月28日、兵庫県生まれ。フジテレビアナウンサー。2003年慶応大卒、フジテレビ入社。朝の情報番組「とくダネ」を10年間担当し、現在は夜のスポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターなどを務める。小学4年生から野球を始め、慶応時代は東京六大学野球で活躍。モットーは「今を生きる」。

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