ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
国際
カトリック国に舞い降りた「中絶ドローン」
更新
首都ワルシャワで行われた聖体祭の儀式。カトリック国のポーランドでは人工中絶が厳しく制限され、違法な闇手術が社会問題化している=2015年6月4日(ロイター)
宗教上の理由などから妊娠中絶が厳しく制限されているカトリック国ポーランドに、女性の権利向上を訴えるオランダの市民団体が、小型の無人機ドローンを使って人工的に中絶できる薬を運び込むパフォーマンスを行い、論議を呼んでいる。
英紙ガーディアンは、この市民団体は安全な人工中絶を行うために薬が必要な女性を救おうとした、と報道。「中絶ドローン」は隣国ドイツから飛行して国境を越え、「ポーランドの厳しい法律に対する関心を世間に喚起した」と伝えた。
一方で、ポーランドのカトリック系保守紙ナシュ・ジェンニクは、オランダの団体は胎児を犠牲にする「死のドローン」を送ったのだ、と痛烈に非難した。さらに「ナチスは占領時代に中絶と育児制限を推進し、ポーランドの破滅を試みた」とまで反論し、改めて人工妊娠中絶は許されないとの立場を示した。
ポーランドでは、社会主義政権下で認められていた人工中絶について、民主化後の1993年に原則的に禁止する法律が施行された。中絶は母親がレイプ被害を受けたり、出産で母体が危険にさられる場合などにのみ認められている状況にある。
ドローンを飛ばしたオランダの団体「ウィメン・オン・ウェーブズ」はこれまでも妊娠中絶が必要な女性に、世界保健機関(WHO)で承認された薬を郵送してきた経緯がある。妊娠9週目までにこの薬を内服すると流産と同じような状態になり、手術なしで妊娠を終わらせることができるのだという。
ウィメン・オン・ウェーブズを創設したオランダの女医、レベッカ・ガンパーツ氏(49)は、ポーランドでは法律上、中絶が許される場合でもカトリック系の病院が申請を拒否していると指摘。「裕福な人は外国に行って中絶ができるが、手段を持たない人は苦しんでいる」と話す。
実際、人口約3850万人のポーランドでは推定で年間5万人の女性が海外に渡航するなどして人工中絶を行っているのだという。しかし、海外への“中絶ツアー”を斡旋(あっせん)する団体も、地元検察の捜査を受けている。国内では闇で違法な中絶を行う医師もいるが、近代的な医療設備の下での手術は困難で、女性は危険にさらされている。
こうしたことから国内外の人権団体などがポーランドの状況を批判してきた。しかし、最近の世論調査でも国民の60%以上は「道徳上、受け入れられない」との立場を示しており、容認派と大きな開きが出ている。
国会でも論議が行われているが、依然として人工妊娠中絶は“タブー”なのである。
英紙テレグラフによれば、女性の権利に理解がある欧州でも妊娠中絶に関する対応は分かれており、スペインやポルトガルなどのカトリック国のほか、フィンランドなどでも一定の規制がある。マルタやアンドラではいかなる場合でも完全に禁止されている。
ポーランドと同様、厳しい法律があるアイルランドでは、人工中絶を行った女性は禁錮刑を受ける可能性さえある。そのため、毎年約4000人が国外での中絶手術を余儀なくされているという。オランダの団体は「中絶ドローン」をアイルランドにも飛行させる計画を立てている。
しかし、厳格なカトリック国でも変化が起きているようだ。アイルランドでは5月、カトリック教会が反対してきた同性婚について、合法とする憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、賛成票が62%に上った。ディアミド・マーチン大司教(70)は「社会革命が起きている。教会は現実を見つめる必要がある」と語っており、今度は人工中絶についても、容認する動きが広がる可能性がある。
北米でも宗教的な理由から中絶に反対する一定の層があるが、女性個人の権利を認めるべきという立場から容認派が増えているという。
ポーランドでのドローンによる運動について、「ハイテクを利用した女性の権利のための勝利だ」との見出しをつけたカナダ紙グローブ・アンド・メールは「人工中絶に良いも悪いもないのだ」と伝えている。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)