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【国際政治経済学入門】「人民元国際化」 高望みが招いた上海株暴落

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【国際政治経済学入門】「人民元国際化」 高望みが招いた上海株暴落

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上海株価と香港経由の上海株売買シェアの推移=2015年6月1日~7月9日  人民元の国際化にあせる習近平政権は上海株暴落を招いてしまった。

 習国家主席は、国際派の周小川中国人民銀行総裁を通じて人民元を国際通貨基金(IMF)の仮想通貨SDR(特別引き出し権)への組み込みをIMFに働き掛けてきた。SDRは米ドル、ユーロ、円、英ポンドの4大国際通貨で構成される。SDR通貨として認定されると、他の国際通貨と自由に交換できるようになるので、世界各国の中央銀行が外貨準備資産に採用し国際金融市場で活発に取引されるようになる。IMFは5年に一度、SDR構成通貨を見直しており、今秋はそのタイミングである。

 上海株暴落はその中国の「野望」が高望みであることを証明した。理由は2つある。

 1%未満の外国人が翻弄

 IMF理事会で唯一、拒否権を持つ米国はこれまで、中国に対し株式を含む金融市場の対外開放を強く求めてきた。IMFによるSDR通貨認定基準は、国際的に自由利用可能な通貨であることだ。外国人投資家による中国株投資を厳しく制限している限り、米国の同意を得ることは難しい。

 そこで、北京は昨年11月17日に香港証券取引所と上海証券取引所の相互取引を解禁した。外国人投資家は上限付きで香港市場から上海株を売買できるようになった。

 習政権は相互取引に合わせ、株価の引き上げに全力を挙げてきた。人民銀行は利下げして、投資家が借金して株を売買する信用取引をてこ入れし、党機関紙の人民日報は株式ブームをあおった。株価の上昇速度が鈍ると、人民銀行は追加利下げし、上昇を後押しした。多くの国有企業は株式ブームに便乗して、過剰な設備投資や不動産投資の失敗などで累積した債務を帳消しにしようとし、株式の新規公開や増資でコスト・ゼロの資金を調達してきた。平均株価は6月初旬までの1年間で2倍以上に上昇した。

 一方で実体経済の方は停滞が続いているので、株価は明らかにバブル状態である。不安が漂っている中で、6月12日の金曜日に最高値をつけたが、週明けの月曜から暴落が始まった。その引き金を引いたのは、香港経由の「外国人投資家」のようだ。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルの6月23日付によれば、6月3日までの3週間で上海など中国の証券市場に外部から73億ドルの資金が流入したが、翌週には68億ドルが一挙に流出したという。香港ルート向けに部分的に門を開けたら突如、大波乱である。

 実のところ、上海市場での外国人シェアはごくわずかである。グラフは香港証券取引所が発表する香港経由の上海株売買合計額のシェアである。上海株が急降下を始めた当時のシェアは1%にも満たない。外国人投資家は、ちょうど、膨れ上がった風船を突く小さな針の役割を果たしたようだ。

 北京が震え上がるのは容易に想像できる。SDR通貨認定のためには、これから順次、金融市場の自由化を約束させられる。しかし、外国人投資の比率が高まれば高まるほど、上海市場は大きく揺れる恐れが高まる。

 自ら暴露した不適格性

 習政権にとって当面、株価の暴落を食い止めることが最優先課題だ。中国人の個人投資家数は今回の株式ブームで急増し、共産党員数8800万人をはるかに超えている。株価引き上げの旗を振ってきた党指導部の信頼は大きく損なわれる。

 株式バブルの原動力である信用取引では、住宅を担保にすることも解禁するなど、取引規制を緩和する。上場企業の半数以上を売買停止にした。人民銀行は市場向け資金供給を約束し、証券業界が共同で株を買い支える。他方で株式の新規公開を禁止した。株価指数先物を利用した空売りを取り締まる。7月1日に習政権の肝いりで施行された国家安全法では、金融危機での強権発動を可能にしている。公安当局が投機の取り締まりに動き出した。

 一連の規制強化は、金融市場自由化とは真逆である。人民元は国際通貨の条件を満たさないことを図らずも、北京自らの手で暴露した。それでも、北京はSDR通貨実現に執念を燃やすだろう。そうなれば、人民元を刷って海外で自由に使えるようになるのだから。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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