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科学
「歓喜の一瞬」 冥王星の接近観測成功
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米無人探査機「ニューホライズンズ」の管制室があるジョンズ・ホプキンス大応用物理学研究所で、冥王星に最接近したことを伝える“号外”を持ち喜ぶNASA(米航空宇宙局)のメンバー=2015年7月14日、米メリーランド州(NASA提供、AP) 米航空宇宙局(NASA)の無人探査機ニューホライズンズが、太陽系の最も外側にある準惑星、冥王星に最接近し人類初の観測に成功した。14日午後8時52分(日本時間15日午前9時52分)、探査機から地球に成功を知らせる信号が届いた。2006年1月の打ち上げから9年半かけ48億キロを旅した。冥王星の上空1万2500キロを時速5万キロもの猛スピードで通過した「一瞬」に撮影・観測したデータを今後16カ月かけて地球に送信。神秘のベールに包まれていた冥王星の成り立ちのほか、太陽系誕生を解き明かす新発見が期待されている。
「歓喜の瞬間だった」。ニューホライズンズ計画の主任研究員の、アラン・スターン博士(57)は、最接近をこう表現して喜んだ。信号は、実際に最接近してから13時間後に送られてきた。博士は「われわれは50年前のケネディ大統領の時代に始まり、今日のオバマ大統領の時代まで続く太陽系の初段階の探査を完了した」と、その意義を強調した。
冥王星は、探査機が打ち上げられた7カ月後に、惑星から準惑星に格下げされたが、今回の接近観測で人類は、それまで9つあった惑星すべてに探査機を送り込んだことになる。
NASAのボールデン局長は「信じられないほどの偉業だ」と自賛。オバマ大統領もツイッターに「冥王星に最初の訪問者がやってきた。米国のリーダーシップを示した偉大な日だ」と書き込んだ。
観測はまさに一瞬だった。秒速14キロという音速の約40倍ものスピードで上空を通過する際に、冥王星に加えて、その最大の衛星であるカロンを高解像度カメラで撮影したほか、大気の成分や気温、地形などを観測した。
最接近距離から撮影した写真は、これまでのものより10倍の解像度があり、ニューヨークのセントラルパーク(3.4平方キロメートル)と同じ広さを鮮明に映し出し約70メートルの物体を判別できるという。
映像や観測データは、2つある約8ギガバイトの記憶媒体にいったん蓄積される。この容量は一般的なデジタルカメラのフラッシュメモリーと同水準。これを48億キロ離れた地球に送信するのだが、通信速度は800bpsと20年も前の通信モデムと同程度の能力しかなく、完了までに16カ月を要する。
送信は15日午前2時32分(日本時間15日午後3時32分)に始まり、最接近時の映像は日本時間16日にも公開される予定だ。
探査機は、太陽から遠すぎて役に立たない太陽電池に代わって原子力電池を搭載しており、旅はまだまだ続く。観測を続けながらすでに冥王星から猛スピードで離れている。次なる目標は無数の天体が密集する太陽系外縁部の「カイパーベルト」と呼ばれる領域だ。この領域を探査した後、太陽系外の小天体の接近観測にも挑む計画だ。
計画に携わる米マサチューセッツ工科大(MIT)のリチャード・ビンゼル博士(惑星科学)は、海外メディアに「われわれは、冥王星の興味深い謎を理解するため長い道のりを歩んできた」と語り、送られてくるデータの解析に意欲を示した。
さらに「新時代のアポロ計画だ」と語り、宇宙探査が太陽系外の天体への接近観測という新たなステージに入ったことを高らかに宣言した。(SANKEI EXPRESS)