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【溝への落とし物】時の流れ 本谷有希子

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【溝への落とし物】時の流れ 本谷有希子

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 ちょっとこちらで済ませなければいけない用事があってのことなのだが、高校卒業後、飛び出すように上京して、もう十数年。否が応でも、自分が暮らしていた頃との違いが気になってしまう。

 そもそも、実家のあちこちがすでにリフォームされている。外壁の壁はすべて塗り替えられているし、居間の天井にはなぜか小洒落たプロペラみたいなものが取り付けられ、くるくると部屋の空気をかき回している。空き地だった隣の草むらには、知らない工務店が建っている。

 道路、田んぼ…変わる故郷

 両親が溺愛している一匹の白いスピッツは、私が東京に行ったあとに飼われ出した犬だ。私の部屋などとっくにないかわりに、この犬が専用の庭までもらって、のびのびと放し飼いにされている。実家に戻ってきたその日に、私は肩身の狭い居候の身として「毎晩散歩に連れて行きます」と約束をさせられたのだった。

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  • 劇作家、小説家、演出家、本谷有希子さん(本人提供)

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