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カンボジア、日本企業の声に敏感 日本人商工会・近藤秀彦新会長に聞く

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

カンボジア、日本企業の声に敏感 日本人商工会・近藤秀彦新会長に聞く

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 カンボジア政府は3月末、縫製・製靴業セクターの労働者の最低賃金を61ドル(約6000円)から80ドルへ引き上げた。30%以上の大幅な賃上げは「日系企業進出元年」といわれた2011年から続くカンボジア進出ブームに、変化をもたらすのか。4月1日にカンボジア日本人商工会(会員企業132社・団体)の会長に新しく就任した近藤秀彦氏(パナソニック・カンボジア駐在員事務所所長)に聞いた。

 大臣にスト解決要求

 --最低賃金引き上げの背景には、カンボジア国内で増えたストライキなど労働争議があるが、ストは日系企業でも発生しているのか

 「今現在は平静に戻ったが、今回の引き上げのきっかけのひとつが、ベトナム国境にあるバベット地区での労働争議だった。この地域は首都プノンペンから車で4時間ほどの農業地帯だったが、ベトナムの物流拠点であるホーチミン市に近いことなどから、経済特別区(工業団地)が開発され、日系を含む多くの外国企業が進出している。ところがバベットでは、日系以外の外国企業が労働法を守らずに操業し、改善を求める労働者によるストが発生するようになった。今年2月には抗議行動は2万人規模にふくらみ、一部では暴徒化するなど治安が悪化した。現地の日系企業はそのあおりをうけ、一時は工場の操業を停止せざるを得ない状況にもなった」

 --日系企業側はストにどう対処したのか

 「私たちカンボジア日本人商工会にも、バベット地区の会員である日系企業から相談があり、3月中旬には、私自身を含む商工会の代表が労働問題を扱うカンボジア政府の労働省幹部や社会福祉省のイット・サムヘン大臣らと面会した。労働者の賃金が適正な範囲とサイクルで上がり、彼らの生活が豊かになることは歓迎すべきことで、労働者の権利として、法律にのっとったストを否定するものではない。しかし、一連の抗議行動の中には違法行為もあり、これは看過されるべきではないと訴え、事態の早期解決を強く求めた」

 首相は親日的な姿勢

 --最低賃金引き上げは10年以来、3年ぶりだが、日系企業の進出には影響が出るか

 「引き上げ率は別として、金額的には周辺諸国の最低賃金よりもまだ低く、『安価な労働力』という面では、カンボジアの競争力がすぐにそがれるわけではないだろう。だが急激で、度重なる賃上げは、進出を検討している企業の意欲を抑制し、カンボジアの経済発展を鈍化させる懸念もある。アジアの他地域でも、日本企業の進出は、雇用を創出し、結果的にその国の発展に寄与してきている。それをカンボジア政府もよくわかっていて、雇用を創出する日本企業の声にはきわめて敏感だ。イット・サムヘン大臣との会談では『フン・セン首相から、日系企業の意見はよく聞くように、商工会のみならず個々の企業からの要望にもこたえるように、と指示されている』と言われた。カンボジアでの経済活動には、ほかに電力供給、インフラの充実、輸出入手続きの迅速化など、改善すべき課題もある。商工会としては、これからも機会をとらえて、在カンボジア日系企業がより活動しやすくなるよう政府当局などに働きかけていきたい」

 --東南アジアでは、政治・経済改革が進むミャンマーが次の進出先として注目されている。カンボジアへの企業進出は、これからも続くと考えるか

 「賃金の安さは、今も企業にとってカンボジア進出のひとつの魅力であることは変わらないが、今回の最低賃金引き上げをみればわかるように、労賃はいずれ上がっていく。安価な労働力だけを求める企業は、新しい場所へと目を向けるだろう。だが、長期的にみた場合のカンボジアの利点は、タイとベトナムの間に位置する地理的な条件にある。両国にある製造工場の分業拠点としてサプライチェーン(供給網)を構成すれば、カンボジアは今後も重要な進出先の選択肢となり得るだろう。また親日的でまじめな国民性と、政治的安定はこれからも進出を考えるどんな企業にとっても、普遍的に魅力だ」(在カンボジア・ジャーナリスト 木村文)

【プロフィル】近藤秀彦

 こんどう・ひでひこ 1980年岡山大学経済学部卒、松下電器産業(現パナソニック)入社。事業部国内営業、アジア大洋州本部勤務、ベトナム駐在員事務所所長などを経て、2010年12月からパナソニック・カンボジア駐在員事務所所長。55歳。岡山県出身。

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