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株式分割、投資家の裾野拡大 個人呼び込み、NISA後押し

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株式分割、投資家の裾野拡大 個人呼び込み、NISA後押し

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株式分割を実施した主な企業  上場企業の株式分割の動きが活発化している。企業の狙いは、株主になるのに最低限必要な投資金額(最低投資金額)を引き下げ、個人投資家を呼び込むこと。今年に入って最低投資金額を引き下げた東証1部上場企業は前年比約2.9倍に達した。来年1月から始まる少額投資非課税制度(NISA)も、企業の取り組みを後押ししている。

 マネックス証券によると、今年1月以降、株式分割によって株式購入できる最低投資金額を引き下げた東証1部上場企業は49社で、昨年の17社を大きく上回った。

 企業にとっては、株式分割で小口の株主が増え、株主総会での資料作成費や会場を確保する経費がかかるなどのデメリットもある。

 だが、市場に出回る株式の流通量が増え、分割後の最低投資金額も下がれば、個人投資家が購入しやすい環境になる。買い注文が集まり、株価が上昇することも期待できる。また、1株当たりの配当金が株式分割前と変わらない場合、配当金が増えるメリットもある。市場では、株式分割を行う企業を「成長が見込まれる」とみるケースもある。

 最低必要額引き下げ

 京セラは今月1日、1984年5月以来29年ぶりとなる株式分割を実施。先月30日時点の株主が保有する1株を2株に分割した。分割前、売買単位の100株を購入しようとすれば、100万円を超える資金が必要だったが、22日の終値(5150円)でみると、約半分の資金で投資できる。京セラ株は分割を発表した8月28日の前日終値と比べ、29日終値は2.0%上昇するなど、順調に推移しているという。

 スナック大手のカルビーは今月1日、1株を4株に分割した。単位株購入のための最低投資金額は、分割前の110万円程度から30万円以下に下がった。同社が株式分割を発表した8月30日の終値は3.2%も上昇した。

 分割に踏み切った理由について、カルビーは「最低投資金額を下げてさまざまな方に株主になっていただき、投資家層の拡大と流動性の向上を図った」と説明する。市場でも「個人投資家の資金流入を期待したとみられる投資家の買いが多く入った」(大手証券会社)という。

 ヘルスケア事業のユーグレナも今月1日、4月に続いて2度目となる1株の5分割を実施した。最低投資金額は、3月下旬の150万円から約16万円まで低下。分割によって個人投資家の資金が流入するとの期待が高まり、9月26日の売買代金は前日の約10倍となる102億円まで上昇した。

 東京証券取引所を傘下に置く日本取引所グループも今月1日、1株の5分割に踏み切っている。

 「バブルは起きない」

 個人投資家の裾野を広げようと苦慮してきた東証にとって、株式分割の動きは大歓迎だ。

 日本証券業協会によると、個人投資家の株式保有額は100万円未満までが32.0%、300万円未満までは59.8%を占める。多くの個人投資家にとって、最低投資金額が100万円を上回る株にはなかなか手を出しにくいのが実情だ。

 全国の証券取引所は、最低投資金額を5万~50万円になるよう要望している。東証では上場企業に対し、来年4月までに売買単位を100株か1000株にするとともに、上場企業に対して最低投資金額を50万円未満にするよう求めている。

 また、来年1月に始まるNISAは株式や投信に投資できる年間の上限額が100万円となっており、「個人投資家の取り込みを狙い、株式分割で最低投資金額を下げようとする企業の背中を後押ししている」(大和証券の塩村賢史シニアストラテジスト)という。

 株式分割をめぐっては、IT企業などが分割を繰り返し市場を混乱させた“前科”がある。

 粉飾決算事件を起こした旧ライブドアは、2003年8月から1年余りの間に100分割を含めて計3回、累計で1株が1万株になる株式分割を実施。一時的な株券不足で株価の押し上げ要因となり、同社の時価総額が拡大し、M&A(企業の合併・買収)を仕掛ける原資となった。株式分割するだけで時価総額が増える“錬金術”が社会問題となった。

 東証は06年6月、市場の透明性、信頼性を高めるための施策をまとめた「上場制度総合整備プログラム」を発表。自粛要請にとどまっていた大幅な株主分割を規則で制限した。

 今回の一連の株式分割では市場の混乱が起きていない。大手証券関係者は「株式分割による上昇は一時的なもの。実際の業績がついていかなくては高値は続かない」と指摘し、バブルは起きないとの見方を示す。

 株価上昇が今後も続けば、最低投資額を抑えるための株式分割ラッシュが当面続きそうだ。(佐藤裕介)

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