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乱れる世界の最高学府 韓国は“権力型性犯罪”、米国は女性2割が暴行被害
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教授と学生間の性的関係を公式に禁じた米ハーバード大学(マサチューセッツ州ケンブリッジ) 世界中の大学で教員による学生への性的暴行やセクハラが後を絶たない。韓国では昨年12月、ソウル大の有名教授が複数の女子学生にセクハラをした疑いで逮捕された。米国では学生の5人に1人が被害にあっているといい、米国の名門ハーバード大では今年に入り、教員と学生との間の恋愛関係に関する新方針を示し、性的関係を持つことを公式に禁じた。世界の最高学府が乱れている。
韓国の最高学府と称されるソウル大がセクハラ問題にさらされている。数理学分野の研究で著名な教授が複数の教え子とインターンの女子学生に対し常習的に痴漢行為などを行っていたとして、昨年12月、常習強制わいせつの疑いで捜査当局に逮捕されたのだ。
韓国紙、ハンギョレ(電子版)によると、この教授は昨年7月、ソウル市内の遊園地のベンチで学会を準備するため自身の仕事の手伝いをしていた他大学出身の数人のインターン女子学生を膝(ひざ)に座らせ、体を触れたとされる。ソウル大の女子学生4人にも繰り返し会うことを強要し、実際に会えばスカートの下に手を入れたり、抱きついて強制的にキスした疑いももたれている。
ソウル大のセクハラ騒動はこの教授だけにとどまらない。聯合ニュースなどによれば、今年に入り、経営学研究院教授が数年間にわたり女子学生にセクハラ行為を行っていたこともわかった。教授は飲み会の席で女子学生にキスをしたり、男性関係について聞いたりしたほか、みだらな内容のメールを送り、プライベートで会うよう求めていたというのである。
ソウル大など韓国の大学で相次ぐセクハラ行為をめぐっては、韓国紙、中央日報(電子版)が「教授のセクハラが消えない理由」と社説で取り上げ、「大学教授の弟子に対するセクハラは甲乙関係を悪用した代表的な権力型性犯罪だ」と断じている。
韓国社会では、「甲」「乙」はニュースでも一般的に使われ、上流階級や絶対的権力を行使できる立場の人間が「甲」で、常に服従を強いられる立場の人間が「乙」と言い表されるようだ。つまり、立場の弱い学生は成績や学位、進路に不利益を被らないかと恐れ、被害にあっても申告しにくいのである。
ただ、韓国の場合、「甲乙関係を悪用した権力型性犯罪」は大学だけでなく、社会全体にはびこる。元検察総長が、自身が会長を務めるゴルフ場の若い女性職員にセクハラをしたとして告訴されたり、陸軍の大佐が女性兵士へのわいせつ事件で逮捕されるなど枚挙にいとまがない。“権力型”といえば、大韓航空機内で客室乗務員のナッツの出し方に怒って機体を引き返させた大韓航空前副社長による“ナッツ・リターン”事件も同じ構図だ。
こうした事態を受けて韓国政府は先月、ようやく重い腰を上げ、「権力型性犯罪」根絶対策を発表した。その実効性はともかく、ハンギョレ(電子版)によれば、今後はセクハラ犯罪で罰金刑を宣告されただけでも別途の懲戒手続きを経ずに、「当然退職」の措置がとられるという。そして最近では捜査機関や裁判所も大学教員のセクハラ犯罪を厳しく扱っているようだ。実際、レッスン中の弟子に常習的にセクハラをしていた音大教授に懲役1年6月の実刑判決が言い渡されたという。
一方で、大学側にセクハラの申告があっても学校の名誉を落とすとの理由で隠して済ませるケースが多いのが実情らしい。中央日報の社説は「大学が先に徹底した真相調査をし、懲戒すべきである。そうしてこそ追加被害を防ぎ、他の事件を予防できるはずだ」と訴えている。
米国も大学内でのセクハラが深刻だ。ホワイトハウスの2014年の報告書によると、大学在学中に女性の約20%が性的暴行を受けているという。
報告書によると、米国の性的暴行の被害者の80%が25歳までに被害に遭っている。内訳は10歳以下が12%、11~17歳が30%、18歳~24歳が38%。とくに大学内での性的被害の危険性を訴えている。
多くの被害者は、飲酒や薬物投与などで意識を失った中で襲われている。2007年の調査では、こうした被害者は58%にのぼり、パーティーに参加し被害に遭った。一方、男子学生の7%が加害者(未遂も含む)になったことがあるとし、このうち63%が複数回犯行に及び、その数は平均6回にもなったという。
CNN(電子版)によると、07年の調査では、大学で性的暴行に遭った女子学生のうち2・4%が知らないうちに薬物を飲まされて抵抗できなくなったと答えた。
こうした状況を前に、教育省は昨年5月、学内での性的暴行やセクハラへの対応をめぐって米当局が調査を行っている55の大学や大学院のリストを発表した。連邦政府から公的助成を受ける学校に男女差別を禁じ、性的暴行への対応などを規定した教育改革法第9条に基づくものだ。
リストには東部の名門ハーバード大も含まれ、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)やCNN(いずれも電子版)など米メディアは、同大学が2月、その対応策として「教授と学生との間の恋愛関係に関する新たな方針を示し、性的関係を持つことを公式に禁じた」と一斉に報じた。
ハーバード大がこれまで「教授と学生との間の恋愛関係の禁止」を明文化していたこと自体が驚きなのだが、さらに「性的関係の禁止」にまで踏み込んだのである。つまり、そこまでしなければ、学内での性的暴行やセクハラがなくならないということなのだろう。ただ、今回の新方針で大学院は対象外となっており、“抜け道”はありそうだ。
このほか、WSJによれば、女性への性的暴行につながりがちな「パーティー文化」を取り締まろうと、ウオツカやウイスキーなどアルコール度数の高い酒のキャンパスへの持ち込みを禁ずる動きもダートマス大やブラウン大など全米の大学で相次いでいる。
国内に目を移しても、やはり教員による学生へのセクハラは繰り返される。3月だけでも、同志社大スポーツ健康科学部の50代の男性教授が、指導する女子学生にセクハラやパワハラにあたる言動を行っていたことが判明。さらに、徳島大では大学院ソシオテクノサイエンス研究部の40代の男性教授が女子学生に抱きつくなどセクハラ行為をしたとして停職6カ月の懲戒処分を受けていたことがわかった。
大学側はそれぞれ「ハラスメント事案が起きたことは誠に遺憾であり、被害を受けた学生や関係者におわびする」「心より深くおわびする。より一層服務規律の順守を徹底する」と、判で押したようなコメントを出した。その場限りの謝罪とも思えてしまう。