「ほとんどが嘘つきだ」と言われて黙っているわけにいかず、「ムスリム自身がハラルだと言うものなら良いのではないか」と反論すると、「ハラル認証はムスリムなら誰でも出せるわけじゃない。それすらわかっていないから、日本の状況は危険なんだ」と切り返された。
ならばどうすればいいのかと尋ねると、「日本政府のしかるべき機関が、ハラル認証について取り組むべきだ」という。彼は現在、観光庁との接点はあるが、「ハラルは食べ物に限らない。化粧品や薬品、機械や輸送もあるので、省庁を横断した対応が必要だ」と指摘する。
イスラム国家でもない日本にできるのか、と聞くと、「だからこそ、中央政府がやらないとだめだ。政府がきちんと取り組んでいるという姿勢を示すことが、安心材料になる」と力説した。
彼の熱弁を聞いているうち、夕食時。そろそろ、食事でもと思い、近くのハラルレストランという看板を掲げている店に行こうと言うと、彼は「いやそんなところより、鮨(すし)屋に連れて行ってくれ」という。
彼が言うには「日本で本当にハラルのレストランがあるとは思っていない。鮨屋なら肉さえ使っていなければ問題ないし、隣の席に酔っ払いがいても気にしない。ハラルと言われてだまされるなら、最初から行かないほうが良い」というのだ。
日本ではハラルビジネスセミナーが盛んで、ハラルビジネスのコンサルタントも多い。日本人はつい理屈で決めたがるが、われわれはあくまで異教徒だという立場を常に忘れないことだと、鮨をつまみながら、しみじみ思った夜だった。(編集委員 宮野弘之)