日本が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提案していた「和食」が4日、無形文化遺産に登録されることが決まった。政府が登録を目指した背景には、食の多様化による「和食離れ」や原発事故で広がる「風評被害」など日本の食をめぐる危機感がある。料理人でさえ定義に悩むほど多様な文化を含む「和食」。今後は次世代にどう継承するかが問われる。
無形文化遺産登録を最初に提案したのは、京都の料理人らでつくるNPO法人「日本料理アカデミー」だ。日本食の継承や世界への発信を目的に設立された同アカデミーは、2010年のユネスコ政府間委員会で「フランスの美食術」などが食文化として初めて無形文化遺産に決まったことを受け、「和食離れを食い止めるきっかけに」と日本料理の無形文化遺産登録を目指し始めた。
同アカデミーが京都府とともに政府に働きかけたのは、東日本大震災から間もない平成23年6月のこと。政府の対応は早く、7月には農林水産省内に「日本食文化の世界無形文化遺産登録に向けた検討会」を立ち上げた。「実現すれば原発事故で広がる日本食への風評被害を払拭でき、日本を元気づける明るい話題にもなるという判断があった」と農水省関係者は振り返る。
料理人らを集めた検討会では主に「日本の食とは何か」「どうすれば審査に通るのか」が議論された。当初は本膳料理から懐石、会席、精進料理、郷土料理まで、さまざまなイメージが浮上。その中から「会席料理こそ日本料理」とする意見が主流になった。
しかし、「会席料理」での提案は急遽、見直しを迫られる。23年10月、その年の無形文化遺産を決める事前審査で、登録確実とみられていた韓国の「宮中料理」が、「一部の人だけのもの」という理由で登録見送りを意味する「情報照会」勧告を受けたのだ。
その後「日本の食文化全体にスポットが当たるようにしたほうがいい」など日本料理の定義を見直す意見が続出。最終的に、年中行事との結びつきや、多様な食材、美しい盛りつけを特徴とする「和食」の概念が導き出された。
今後は、遺産として和食をどう守るかが問われる。同アカデミー副理事長の栗栖正博さんは「日本の食文化を研究する学部を大学に設置するなどして、食育を担える人材を育成したい」と話している。