大麦の発芽具合を壁にこすりつけて調べることや、ポットスチルを木製ハンマーで叩いた反響で蒸溜がどこまで進んでいるかを知ること…。現場でなければ教えられないことだ。
今では、ほとんどの蒸溜所が、観光客の見学を受け入れている。全工程を説明付きで案内し、最後にはウイスキーを試飲させてくれる。フォートウィリアムのベンネヴィス蒸溜所では、スコッチウイスキー誕生の神話にさかのぼる映画を見せてくれた。
オープンになっても現場の真剣さは失われていない。
政孝氏は帰国してからも、常に現場に立った。白衣姿。蒸溜所内をめぐりながら、時折、職工たちに声をかける。笑顔のときもあれば、厳しい表情のときもあったという。
本物のウイスキーをつくって日本の洋酒業界を変える―。「竹鶴ノート」を完成させた政孝氏は「変革者」として、自らの夢に向かって突き進むことになる。