◆自然災害による食糧生産被害
最近、世界で干魃(かんばつ)、洪水などの自然災害による被害が続発している。こうした自然災害で、中国、米国、オーストラリアなどの農業大国で農産物被害を受けると、世界的に影響を及ぼす。2000年に入り、特に中国での自然災害の頻度が著しく増加しており、コメの輸出禁止措置や2003年には各種の農作物の輸入増大などの措置が取られている。2000年ごろまで中国は農業国だったが、1970代から1980年代にかけて第一次産業が衰退して第二次産業の躍進が顕著になり、食糧生産国から消費国に転換した(図5)。
世界最多の人口を抱える中国では、経済発展によりわずか1割の人口が低所得者層から中間所得層に移行すれば、その人口は約1億4000万人になり、日本の総人口以上になる。これだけの人口がより高級でより多くの食糧消費に転ずると、食糧は絶対的に不足する状態に陥り、海外からの輸入に依存せざるを得ない。これはインド、ブラジル、インドネシア、アフリカ諸国の人口増加国でも今後起こりうる問題である。
異常気象による農産物の生産被害が世界各地で起きている状況下で、日本の食料自給率は非常に不安定な状況と言わざるを得ない。国と地方自治体は第二次産業だけでなく、農漁業などの第一次産業でも技術革新(Technical Innovation)を推進する体制を早急に作り上げ、災害に強い品種の研究や生産活動に対して支援を充実する必要がある。(工学博士、元兵庫県公害研究所 田中英樹)