ポンッ。シュワワワワー。
バー・ラウンジのソファに腰をおろすと、何も言わずともスパークリングワインが抜栓された。ディナー前のアペリティフのひととき。ひとりひとりの好みを記憶するバーテンダーが用意したグラスを手に、乗客が語らうあいだを、ひと口サイズのフィンガーフードをのせたトレイを掲げたクルーが、静かに行き交う。
ビールやインド産のスパークリングワイン、同じくインド産の赤白ワイン、ジンやウォッカ、ウィスキーといったベーシックなアルコールは「お好みのままに」の表示。わかりやすく言えば飲み放題だ。
輸入ワインや輸入リキュールを使った特別なカクテルにはチャージがかかる。「5USドル」「7.5USドル」など、それぞれの価格が書かれたメニューリストもある。しかし、カクテルを頼んだゲストは10ドル紙幣や20ドル紙幣をチップとしてカウンターに載せていくから、バーテンダーも伝票を切るような野暮なことはしない。
食事は朝・昼・夕の3食とも、基本的にはインド料理またはコンチネンタル料理の2種類が、プリフィクス・コースで用意されている。豊かなスパイスの香りに食欲をそそられ、“インド人にとってのみそ汁”ともいわれる、食卓の定番の豆スープ「ダール」をうっかり飲み干す。と、ただちにおかわりが運ばれてきてしまった。ストップをかけない限りエンドレス。胃袋に余裕があれば、コース料理を2種類とも注文することもできるそうだ。
きらびやかなテーブルウェアは、すべてフランス・パリのロブジェ社から納められた特注品。カップやプレート類は、薄手の白磁に24金をかけて焼きつけたものだ。裏面にはマハラジャ・エクスプレスのロゴが印されている。カトラリーは、24金の塗装で仕上げたステンレス製。
「24金はやわらかく、カトラリーには向かないためやむを得ません」。24金だけを使ったフォークやナイフも試作したのですよ。フード&ビバレッジマネージャーは、胸を張ってそう言った。
■取材協力:インド政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。