【北京=矢板明夫】中国の裁判所が戦後補償の一環として、商船三井の船を差し押さえたことは、前例のない強硬策といえる。習近平政権による反日キャンペーンは、言論による日本批判から日本企業の資産接収という「実力行使」に進んだことを強く印象づける。今後の日中関係に深刻な影響を与えるのは必至だ。
北京の日中外交筋は、「『戦争賠償の放棄』を明言した中国が、戦時中の問題をめぐり、現在の日本企業の財産を差し押さえることは、外交条約から見ても法律的に見ても非常識な暴挙だ」と指摘する。
さらに、「●(=登におおざと)小平ら中国の指導者の呼びかけに応じて中国の経済発展を支えるために進出してきた企業が、戦前のことを理由に財産を取られるならば、だまされたというほかない」(同筋)との見方も示した。
しかし、今回の措置は、中国では支持を受けている。各ポータルサイトで20日、このニュースがトップ級で伝えられると「遅すぎた英断だ」「中国にある日本企業の財産をすべて没収すべきだ」といった書き込みが殺到した。
中国では現在、第二次大戦中に強制連行されたという元労働者らが日本企業に損害賠償を求める訴状を裁判所に提出する動きが相次いでいる。今回の司法判断を受けて、今後、被告となった企業の中国国内の資産が次々と差し押さえられる恐れもある。
株価低迷や環境の悪化となどの問題を抱え、習近平指導部の求心力は低下している。
ある共産党筋は、「習指導部は、江沢民時代以降実施してきた愛国主義教育によって、国民の間で高まっている反日感情を利用し、国民の不満をガス抜きさせようとしている」と分析した。