東京生薬協会の指導を受け、青葉山で薬草栽培に取り組む住民ら=2015年8月、福井県高浜町【拡大】
人口減少が農業の担い手不足を招き、耕作放棄地が広がっている。荒れ地は農作物だけでなく暮らしにも影を落とす。地域に合った作物を選んだり、人手をかけない方法を工夫したりと、克服を目指して新たな取り組みが各地で始まっている。
◆地元産で観光資源
「想像以上においしい。薬草入りとは分からない」。男性がうなった。福井県高浜町で2月に開かれた地元産の薬草やハーブを使った料理の試食会。杜仲茶を利用したハムや滋養強壮に効くという「ジオウ」をすり下ろしたカレー。珍しいメニューに「癖がなく食べやすい」「香りが良い」と感嘆の声が上がった。
県最西端にある高浜町は人口約1万人の3割が65歳以上。「若狭富士」といわれる青葉山(標高693メートル)では棚田が作られてきた。しかし、高齢化や後継者不足で離農者が増え耕作放棄地が拡大、イノシシなどの被害も深刻になってきた。
目を付けたのはオウレンなどの薬草が自生する環境だ。地元住民で環境保全に取り組む「青葉山麓研究所」の山下暢以知さん(61)は「漢方薬などに使える植物が少なくとも300を超える。調べれば、もっと貴重な薬草もあるはず」と話す。
製薬会社などでつくる「公益社団法人東京生薬協会」(東京)によると、国内で使われる漢方薬や生薬の原料の8割が中国産。しかし、値上がりや輸出規制などが懸念され、同協会の末次大作専務理事(68)は「国内で栽培地を確保する動きにつながっている」と話す。同町と製薬業界の思惑は一致した。
町は2015年、薬草の試験栽培を開始。同協会の指導を受け、下剤の原料となるエビスグサや鎮痛作用のあるトウキなど約20種類の薬草を計約3000平方メートルに作付け。放棄地は新たな農業に挑む場に変わりつつある。