スー・チー氏、「日本シフト」の狙いは 少数民族問題で窮地 対中依存警戒

ジェトロ主催のセミナーで講演するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相=10月、東京都港区
ジェトロ主催のセミナーで講演するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相=10月、東京都港区【拡大】

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が、日本重視の姿勢を鮮明にし始めた。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ迫害問題への対応をめぐり、欧米から批判を浴びて窮地に陥るスー・チー氏だが、中国依存を強めることには警戒感がある。欧米と一線を画して支援を続ける日本から投資を呼び込み、バランスを取る狙いがありそうだ。

投資呼び掛け

 「ミャンマーと日本の間には多くの絆があります」。10月上旬、東京での「日本・メコン地域諸国首脳会議」に出席するため来日したスー・チー氏は、日本貿易振興機構(ジェトロ)主催のセミナーで講演。日本は「友人」と繰り返し、投資を呼び掛けた。ジェトロによると、スー・チー氏が経済関連のセミナーで講演するのは極めて珍しいという。

 軍事政権時代の閉鎖的な政策で周辺国に比べて経済成長が大きく遅れたミャンマーは、2011年の民政移管で経済開放にかじを切り、外資導入をてこに成長する青写真を描く。しかし、インフラ整備の遅れなど投資環境が不十分なこともあり、ミャンマー政府によると17年度の外国からの投資認可額は約57億ドル(約6380億円)で、前年度の約66億ドルから減った。

 さらに昨年8月以降は西部ラカイン州で治安部隊によるロヒンギャへの迫害が深刻化し、政府の対応の甘さを非難する欧米との関係がぎくしゃくしている。

 欧州連合(EU)のマルムストローム欧州委員は先月、ミャンマー産品輸入の際の関税優遇措置の停止を検討中と表明。事実上の経済制裁に当たり、スー・チー氏にとって新たな悩みの種となっている。

 一方、中国は擁護の姿勢を示す。インド洋に面するラカイン州チャウピューには中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の中核と位置付け、自ら開発権を握る港湾があり、ミャンマーは地政学上重要なパートナーだからだ。ただ、ミャンマーにとって過度な対中依存は安全保障面での懸念が大きい。

利害が一致

 中国の影響力拡大を防ぐという点で日本とミャンマーは利害が一致する。ミャンマーの投資委員会委員長を兼務するタウン・トゥン連邦政府相も同セミナーで、日本企業関係者に「あなたたちがいないと、別の投資家がやって来る」と訴えた。

 安倍晋三首相は10月のスー・チー氏との会談で、民主化支援を続ける方針を明確にした。ロヒンギャ問題を調査する独立委員会にも日本人が加わるなど関与を深めている。ただ、ミャンマー政府の対応次第では国際社会の非難の矛先が日本に向かう可能性もあり、日本にとってもかじ取りは容易ではない。