
3Dプリンターの前に立つインスタリムの徳島泰社長=7月30日、マニラ(共同)【拡大】
日本のベンチャー企業が3Dプリンターを使って義足を作り、フィリピン市場に進出しようとしている。価格は従来の10分の1ほどに抑えられる見込みで、これまで義足を購入できなかった人々にも「歩く喜び」を届けようと、製品化に向けた実証実験に乗り出した。
3Dプリント技術で義肢装具開発を手掛けるインスタリム(東京都世田谷区)。青年海外協力隊や医療機器メーカー勤務の経験を持つ徳島泰社長が今年創業した総勢5人の企業だ。
国際協力機構(JICA)の調査では、フィリピンで脚を切断したり、病気で脚が不自由になったりした人は約123万人いるとみられる。しかし、部品を輸入に頼る義足は1本30万~100万円と高価で、所有者はインスタリムの推計で約5万人にとどまる。
徳島さんは2012~14年、協力隊員としてフィリピン南部ボホール島に滞在。ものづくりの環境が整っていなかったため、3Dプリンターなど最新のデジタル工作機器を備えた工房を設立し、地元企業を支援したことがあった。
このとき、義足不足を偶然知った。「脚を切断することになっても、義足がなければただ切るだけになってしまう。一家の大黒柱であれば働き口も失い、貧困の連鎖に陥りかねない」。美大でデザインを学び、医療機器の知識もあった徳島さん。「これまでの自分の知見を活用すれば状況を変えられる」と考えた。
帰国後、慶応大に研究員として在籍し、コンピューターを使って3Dで義足を設計するソフトウエアを開発。試作も繰り返し、3万~5万円で作れる見通しが立った。従来の義足は完成までに2~3週間を要したが、3Dプリンターを使えば12~15時間に短縮できる。
フィリピンの義足市場は100億円規模と見込む。マニラでの現地法人設立に向け、50人に義足を毎日着けてもらい、強度や安全性を確認する実証実験を7月に始めた。
耐久性の確保が課題だが、19年中に年産1000本を目指す。企業経営と社会貢献を両立させる徳島さんの試みは、確かな一歩を踏み出した。(マニラ 共同)