夜間中学の多くは、生徒たちの学びの証しともいえる文集を毎年作成しています。大阪市立天満中学校夜間学級の令和２年度の文集「ともしび」から３人の生徒の作文とそれぞれの思いを紹介します。
「暗いところから明るいところへ」 小田クニ子さん（７４歳）
貧しかった子供時代の「地獄」を涙をぬぐいながら語り、夜間中学とめぐりあってからの「希望」を穏やかな笑みを浮かべて語った。
３歳のときに母が再婚した。畑仕事、石炭拾い…就学年齢になっても学校に行けなかった。通学を促しに家に来た校長先生らに、義父は「クニ子には働いてもらわんと生活ができん。女は勉強しなくていい」と言い放った。
「あのときのことは忘れられない」。義父の言葉に心を引き裂かれ、目がつり上がった顔に恐怖を覚えた。「『学校に行きたい』と言ってはいけないとわかった」。結局、一度も学校に行けないまま、働きづめで大人になった。
読み書きができないことに引け目を感じ、人の後ろに隠れるようにしていた。役所などで書類を書かなければならないときには指に包帯を巻き、「けがをしているので」と代筆を頼んだ。「つらい思いは…数え切れない」
平成２９年４月、ずっと行きたいと思っていた夜間中学に入学。「漢字で『学校』『先生』と書けたときは本当にうれしかった」と声を弾ませる。「読み書きができない頃は、あれ、これと指でささないといけなかった。縮こまっていた気持ちが胸を張れるようになり、知らないところでも行けるようになった」「暗いところから明るいところに出てきた感じ。学校はこんなに楽しいところかと思った」。言葉が次々とあふれ出る。
「私の夜間中学のイメージは『希望』です」
おかあさんを見習って 金莉（ジン・リー）さん（６９歳）
夜間中学との縁をつないでくれた夫の母親に感謝の思いは尽きない。実父母はすでに亡いが、やさしい義母とは本当の親子のように仲が良く、「おかあさん」と呼んで慕う。
中国残留孤児で、大阪府豊中市の夜間中学で８年間学んだ義母。その姿をそばで見ていた。「おかあさんはよく勉強して頑張りました。ほとんど休まなかった。素晴らしいです」。義母が困っていると、先生たちが親身に相談に乗ってくれていたことを覚えている。「天満の夜間中学の先生たちも、みんなやさしいです」とほほ笑む。
一足先に日本に戻った義母に続き、４６歳のときに夫とともに来日。当時は日本語がまったくわからず、日本の歌などを通して自分で勉強したが、仕事が忙しく時間がない。ようやく少し余裕ができた昨年４月、通いやすい天満の夜間中学に入学した。「おかあさんが喜んでくれ、『ちゃんと勉強してね』と言われた」と振り返る。新型コロナウイルス感染拡大による長期休校が明けた同年６月から登校する。
「授業が楽しい。学校が楽しい。私もおかあさんのように夜間中学で勉強を頑張り、人生を豊かにしたい」
日本語でもっと話したい サプコタ・スリジャナさん（２２歳）
大阪で料理店を経営する両親に呼び寄せられ、１６歳のときに１歳年下の妹と一緒にネパールから来日した。店の手伝いやホテルのベッドメーキングなどの仕事をしていたが、友達から夜間中学のことを聞き、一昨年４月に妹とそろって入学。３年目の現在、「ひらがな、カタカナＯＫ、簡単な漢字も大丈夫。先生たちがめっちゃやさしく、わかりやすく教えてくれます」と笑顔で話す。
妹は今春卒業し、定時制高校に進学。自身は結婚したこともあり、病院で介護補助の仕事をしながら夜間中学に通い続ける。仕事を終え大急ぎで登校しても１限目に少し遅れてしまうが、可能な限り出席して授業を受ける。「大好きな日本、安全な日本でずっと暮らしたい」から。
自分の思いを日本語で伝えようと、言葉を懸命に探す。「夜間中学に来る前は日本語を話す気持ちがなかった。今は日本語でいろんなことを話したい。もっと勉強を頑張ります」
◇
「夜間中学」に関する体験談やご意見、ご感想を募集しています。
住所、氏名、年齢、電話番号を明記していただき、郵送の場合は〒５５６－８６６１（住所不要）産経新聞大阪社会部「夜間中学取材班」、ＦＡＸは０６・６６３３・９７４０、メールはｙａｃｈｕ＠ｓａｎｋｅｉ．ｃｏ．ｊｐまでお送りください。
