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【書評】『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章 上下』定説覆し「性善説」示す 

〝若き知性〟といわれるオランダ人の著者。33歳の歴史家でありジャーナリストの彼が著した本書は上下巻2冊。本を前にいささか私は躊躇(ちゅうちょ)した。猛暑の中でこれを読むのは正直言って面倒だなあと思ったのである。しかし恐る恐るページをめくり始めた私は時間を忘れて読み進めた。あにはからんや面白かったのである。

『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章 上下』
『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章 上下』

この本が面白かったのは彼がジャーナリストであるからかもしれない。言葉選びがいわゆる「学者言葉」ではないのである。異分野にいる者も取り込める文章力、構成力を持つ人だと思う。

この本は一言で言えば「人間の本質は善である」ということを説いたものだ。乱暴な言い方だが「性善説」の本といえるかもしれない。世の中は今、どちらかというと「性悪説」が席巻している。例えば、環境破壊のために文明が崩壊したとされるイースター島、現生人類のサピエンスによって絶滅を余儀なくされたネアンデルタール人、40人近い目撃者がいながらだれも警察に通報せず見殺しにされたとされる米・ニューヨークのキティ事件など、定説とされているさまざまな事例によって冷笑的な人間観や暗い見方が社会にしみ込んでいるのが現状だろう。著者は、これらの事例の真実が定説と異なることをさまざまな証拠から解き明かしていく。

もちろん人間による残酷さは数々存在するが、それならば世界は崩壊しているはずなのである。絶望感だけでは人類は「希望」の未来を構築できない。

「人生の指針とすべき10のルール」と題されたエピローグを読めば、最も本書の言わんとすることが理解できる。例を挙げると、7番目のルール「ニュースを避けよう」ではSNSの危険性に言及し、「いいね」に代表されるようなプッシュ機能がある種の中毒になり得ることを指摘している。そして本書を締めくくる10番目のルール「現実主義になろう」で、他者を信頼し、白日のもとで良いことをし、自らの寛大さを恥じない「新しい現実主義」を始めることを提言する。

性悪説で自らを律してがんじがらめになっている私たちに、性善説を信じることも必要だと教えてくれる。(ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳/文芸春秋・各1980円)

評・神津カンナ(作家)


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