国全体のデジタル化を主導するデジタル庁が9月1日に発足する。新型コロナウイルス対応で露呈した国全体のデジタル化の遅れを見直し、「役所に行かなくてもあらゆる手続きを可能にする」(菅義偉首相)行政のデジタル化を推進するため、各省庁を統率する強い権限を付与。一方で企業の産業競争力を高めていくための策は見えず、民間部門も含めた、真のデジタル改革の司令塔となれるかが課題だ。
「デジタル技術の知見ない」
同庁の事務方トップとなる「デジタル監」人事は迷走した。政府は9月1日に民間から石倉洋子一橋大名誉教授を充てる人事を閣議決定する方針だが、経営学が専門の同氏についてデジタル分野の専門家からは「デジタル技術の知見はない」と不安視する声も出ている。
デジタル監は新設するデジタル相を補佐する特別職で、当初はIT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長ら民間企業経営者らの起用が浮上。ただ、同職は常勤のため現在就いている全ての職を辞する必要があることなどから固辞されたとみられ、米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボ元所長の伊藤穣一氏を充てる方向で落ち着いた。
しかし、その後、性的虐待などの罪で起訴された米国の富豪から資金援助を受け、所長を辞任した過去が問題視され、頓挫。規制改革委員会委員や中央教育審議会委員など政府の役職経験もある石倉氏の起用で最終調整に入った。
石倉氏は米ハーバード大大学院で経営学博士を取得し、企業の経営戦略などが専門。政府関係者は「政府の役職経験もあり、組織をまとめる力がある」と評価するが、専門外の分野でどこまで主導力を発揮できるかは見通せない。
行政のデジタル化に偏り
デジタル庁の業務は、①国のシステムの統合や自治体のシステムを「ガバメントクラウド(国が用意するクラウド)」上で一体運用するなどの政府業務のデジタル化と、②マイナンバーカードの健康保険証としての活用や、新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」のような政策に関するアプリの改善・開発といった国民生活のデジタル化に大別される。
デジタル庁は9月1日の発足日に今後の改革方針の大枠を「ビジョン」として発表するほか、年末までに、改革のスケジュールなどを示した「重点計画」を作成する予定。スケジュールの一部は既に決まっており、マイナンバーカードを保険証としても使える制度は今年10月に本格運用を始め、令和4年度末には、ほぼ全ての医療機関で対応可能にしたい考えだ。
4年度中には、深刻な災害や感染症が発生した場合などに公的給付金を迅速に受け取るため、預貯金口座をマイナンバーと一緒に事前登録しておく仕組みを始める。新型コロナウイルス対策の10万円支給が遅れたのを教訓としており、希望者だけが対象だ。
これらの改革は、デジタル庁が一手に担うのではなく、実動部隊となる各省庁を動かして進める。デジタル庁は改革の計画を策定して一段上から全体を統括する司令塔で、省庁に業務改善などを勧告できる強い権限が与えられている。
職員数は約600人で、うち新規採用の約130人を含めて200人超を民間出身者が占める。今後も新規採用は続ける。局長級など幹部ポストの一部にも民間出身者を起用する。民間企業からの人材に非常勤として働いてもらうことで、省庁と民間企業を人材が行き来する「リボルビングドア」(回転扉)の実験場にも位置付けられている。
デジタル庁内で実行する政策については、従来と異なる手法を取る。担当課の下に人材を配置する固定した組織で進めるのではなく、プロジェクトごとに官民の人材を臨機応変に集める方式を採用する。「役所文化をなくそうという取り組み」(政府関係者)で、スタートアップ企業並みの革新性やスピード感をもって取り組む方針だ。
ただ、政策の実行性をどう担保していくかなど課題も多い。デジタル庁には「サイバーセキュリティー対策の強化」や「デジタル利用の不安低減」なども求められているが、現在示されている政策は行政のデジタル化に偏っている。
民間企業のデジタル化などの産業政策は、所管が経済産業省と総務省に別れたまま。国全体のデジタル化という大目標が看板倒れに終わらないような体制整備も求められる。(大坪玲央)
































