月下美人が今夏初めて四輪の花を咲かせた。香りが家の中にまで流れてきて開花を知らせてくれた。
花好きの母が大切にしていた鉢植え。彼女が元気な頃から毎年一夜だけその名にふさわしい華麗な姿を見せてくれていた。
40年物の鉢植えを受け継いだ私は、今宵咲いた花を隣に住む孫たちに見せようとしたが下の孫娘たちはすでに就寝していた。
顔を見せた娘は「私が小学1年生くらいの夏の夜、おばあちゃんが『月下美人が咲いた咲いた』って見せてくれたわね。おばあちゃんすごくうれしそうだったね」と思い出を語る。
遠い昔のささやかな出来事を胸に留めてくれている娘に、私は心が綻(ほころ)んだ。
今おばあちゃんとなった私も図らずも「咲いた咲いた!」と孫たちに知らせに走っているとは。娘と笑い合った。
折しも一番上の孫が塾から戻り、彼には〝ひいおばあちゃんの月下美人〟を見せることができた。思えば母にとってたった1人抱くことができた曽(ひ)孫である。
ひいおばあちゃんに会ったことがあるのは自分だけ、という思いは彼にとって一つの矜持(きょうじ)となっているようで、自ら墓参を申し出るなど殊勝なところがある。
その日はちょうどお盆のお中日、この香り高い純白の花が母娘三代、四代を取り持ってくれた。
月下美人は亡き母かもしれない。
南雲早苗 71 東京都世田谷区






























