途上国を支える日本の自動車メーカー
こうした途上国で圧倒的なシェアを持っているのは日本の自動車メーカーである。欧州メーカーは高級車を中心としてわずかな台数を売っているにすぎない。生産台数でトヨタと肩を並べるフォルクスワーゲンも、BEV推進に積極的な欧州と中国だけで販売のほぼ8割を占め、それ以外の地域は非常に少ないのだ。
高級車メーカーは、BEVを買える財力のある限られた富裕層だけを相手にしていればいい(トヨタも、レクサスブランドは2035年に完全BEV化するとしている)。もし日本のメーカーがBEV主体に舵(かじ)を切るとするならば、このような地域の顧客を見捨てることを意味する。
欧州と中国と富裕層のことだけを考えればいい欧州メーカーとは事情が異なるのだ。途上国では当面は化石燃料に頼らざるを得ないし、高価なBEVを買える層も少ない。そのような地域でCO2排出を少しでも減らすには、高効率エンジンや低価格ハイブリッドの提供が最も適している。理想的ではないかもしれないが、それが最も現実的かつ効果的な方法なのである。
「トータルCO2排出量」で考える
次に主張すべき点は、BEVは走行時に電気を使うだけでなく、生産にも極めて多くの電力が必要な点だ。いろいろな試算が行われているが、現在の発電状況では通常のガソリン車よりもトータルのCO2排出量が少なくなる分岐点は、おおむね10万〜15万km程度のようである。
欧州やアメリカのように車の走行距離が長く、廃車までに20万km以上走行するのが当たり前の国ならばCO2削減効果があるが、日本のように走行距離が短く、10万km程度で廃車になるケースが多い国ではほとんど削減効果がないどころか、かえってCO2排出量を増やしてしまう危険性すらある。
上記は通常のガソリン車との比較なので、ハイブリッド車との比較ではさらに分岐点は高くなる。日本のような国では、BEVよりもハイブリッドのほうがCO2削減効果は高いと考えるべきだろう。さらに欧米でもバッテリーが20万km以上性能を保てるのかという疑問も残る。
当たり前の事実「BEVに適した地域と適さない地域がある」
このように考えると、欧州など再エネ発電が豊富なエリアではBEVの普及がCO2削減に効果のある可能性があるが、それ以外の地域では必ずしもBEVが最適解ではないのだ。
一方で、中国のように火力発電が主体にもかかわらず政策的にBEV化を進めようとしている国もある。これらの国では税制や利便性でBEVが優遇されるため人工的にBEVの需要が高まる。
現在欧州でBEVの販売が増加しているが、その主たる理由は補助金等の優遇策である。このような地域ではBEVを品揃えするのがマーケティング的に重要である。つまり、世界的には積極的にBEVを売っていくべきエリアと既存のエンジン車を改良したりハイブリッド化したりするほうがいいエリアとはっきり分かれる。






























