「中国マネーより正義のほうが重要」女子テニス協会が“たった1人の告発”を優先したワケ

    試合に勝って笑顔を見せる中国のプロテニス選手、彭帥さん=2016年10月3日、中国・北京 - 写真=AFP/アフロ
    試合に勝って笑顔を見せる中国のプロテニス選手、彭帥さん=2016年10月3日、中国・北京 - 写真=AFP/アフロ

    ■彭さんの問題は「ビジネスよりも重要性で上回る」

    中国のテニス選手で、女子ダブルスの元世界ランキング1位の彭帥さん(35)の安否が依然としてはっきりしない中、女子テニス協会(WTA)は12月1日、中国および香港におけるトーナメント実施を全面的に停止すると明らかにした。WTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)は、彭さんを取り巻く問題は「ビジネスよりも重要性で上回る」と中国のやり口を真っ向から否定している。

    国際テニス連盟(ITF)も、2022年に中国で試合を開催しない意向であることをロイター通信が9日に報じた。一方で、同じテニス界でも男子テニス協会(ATP)は「問題の進展を見守っていきたい」と、静観の構えだ。

    彭帥さんは11月初旬、中国の最高指導部に名を連ねていた張高麗前副首相(75)から「性的関係を強要された」と中国のSNSの微博(ウェイボ)で告発。その後、WTAをはじめとするさまざまな機関が自由な直接対話を求めているが、1カ月以上たっても消息不明の状況が続いている。

    WTAはトーナメント運営において、チャイナマネーに極端に依存しているとされる。しかし、サイモンCEOは今回、「中国の指導者層はこの非常に深刻な問題に対し、信頼できる方法で対処していない」「権力者が女性の声を抑え込み、性的暴行の訴えをうやむやにできるなら、WTA創設の理念である女性の平等という基本理念が大きく後退してしまう」と明確に主張。こうした状況がWTAやその選手らに起こっていることを看過できない、としている。

    ■大会を呼び込みたい中国側の「異常な大盤振る舞い」

    WTAが中国へ積極的に進出したのは、2008年北京五輪開催の直前だった。当時WTAは、北京にアジア太平洋地域本部を開設している。その後、2011年全仏オープンの女子シングルスで李娜選手が優勝、中国でのテニスへの関心が一気に高まった。ちなみに今年の全米オープンで優勝した英国籍を持つエマ・ラドゥカヌ選手(18)が、自身の母親が中国系であることから「私の幼い時からの目標は李娜選手」と言ってはばからない。

    WTAがいわば中国に“進出”した2008年、現地で開催されたWTAトーナメントはわずか2回だった。しかし、コロナ禍直前の2019年には9大会にまで増えている。

    しかも2019年の中国におけるWTAトーナメントへ提供された賞金額は合計3040万ドル(35億円)に達し、異常というほどの大盤振る舞いだったという。特に、深●(=土へんに川)市で開催された年間最終戦「WTAファイナルズ」では1400万ドルを提供。これは前年(18年)水準の2倍、しかも男子テニスの最終戦である「2019年ATPファイナルズ」より500万ドルも多かったという。

    ■2028年までの中国開催が決まっているが…

    多額のチャイナマネー投入に加え、深●(=土へんに川)市内に1万2000人収容の新たな会場建設を約束。こうした“誘致活動”が奏功し、深●(=土へんに川)は同時に手を挙げていたシンガポール、マンチェスター、プラハ、サンクトペテルブルクなどの競合を退け、10年間におよぶ「WTAファイナルズ」の開催権を獲得した。

    2021年のWTAファイナルズはコロナ禍の影響でメキシコのグアダラハラで代替開催となったが、契約上は2028年まで深●(=土へんに川)で行われることが決まっている。中国側の対応によっては、今後7年分の開催地の見直しもありえるだろう。

    ※編集部註:初出時、WTAファイナルズの大会名について認識に誤りがありました。当該箇所を削除します。(12月14日15時30分追記)

    ■最大スポンサーの一つが「ロゴを大会から外したい」

    スポーツの大型大会では、スポンサーなどとともに放映権料の問題がついて回る。東京五輪を開催すべきかどうかの論議が進んでいた頃、筆者は6月23日の記事<「東京五輪の広告収入は過去最高」IOCが絶対に五輪開催をあきらめないワケ>で、国際オリンピック委員会(IOC)と五輪独占放映権を持つテレビ局「NBC」が巨額の金銭契約を結んでいる実態を書いた。それほどまでトーナメントの収入を左右するものは放映権料といっても過言ではない。

    「WTAファイナルズ」中国大会では、放映権は地上波TV局ではなく、中国版ネットフリックスの異名を持つiQiyi(愛奇芸)が獲得。iQiyiはもともと、4社しかいない最上級の「グローバル・オフィシャル・パートナー」の1社で、同社が大会スポンサーとしても最大の広告料を拠出している。

    ところが、WTAと中国側との問題が勃発したことを受け、iQiyiはサイモンCEOが中国での大会全面中止を発表するよりも前に「スポンサーとしてのロゴバナーを大会サイトから外してほしい」とWTAに要望したという。同社は、WTAとの間で2017年から10年間の放映権契約を締結済みで、これまでに2000以上の女子テニスの試合を中国で放映している。


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