箱根駅伝で火ぶた切った「厚底ウォーズ」アシックスはナイキに叩きのめされるのか

    第98回箱根駅伝で、ナイキやアシックスなどのメーカーのシューズを履いてレースに挑む選手たち=東京都千代田区で2022年1月2日、手塚耕一郎撮影 - 写真=毎日新聞社/アフロ
    第98回箱根駅伝で、ナイキやアシックスなどのメーカーのシューズを履いてレースに挑む選手たち=東京都千代田区で2022年1月2日、手塚耕一郎撮影 - 写真=毎日新聞社/アフロ

    箱根駅伝でナイキを履いた選手は、2021年大会201人→2022年154人。アディダスは4人→28人、アシックスは0人→24人という結果だった。スポーツライターの酒井政人さんは「アシックスなどが圧倒的なシェアを誇ったナイキのパイを奪った形で、今後の各社の開発競争が注目されます。ここ2年ほど“沈黙”していたナイキもそろそろ新モデルを出すのではないかとの憶測もあります」という--。

    ナイキ厚底を履く選手は昨年201人から154人に減った

    青山学院大がパワフルな走りで独走Vを飾った箱根駅伝。気象コンディションに恵まれたこともあり、好タイムが続出した。青学大が大会記録を1分41秒更新しただけでなく、順天堂大、駒澤大、中央大、創価大、法政大、神奈川大、国士館大、駿河台大(初出場)、専修大の10校がチーム記録を塗り替えた。過去22チームしか成し遂げていない“11時間の壁”を今回だけで一気に11チームが突破している。

    これはシューズの進化が大きい。ナイキが2017年夏に一般発売した厚底シューズは少しずつリニューアルを重ねて、圧倒的に速くなっている。個人差があるとはいえ、従来の薄底タイプと比べて、1kmあたり2~3秒のアドバンテージがあると考えていい。駅伝の世界では、しばしば監督から選手に向けて「1秒を削りだせ」といったげきが飛ぶが、それがシューズの性能によって果たされる部分もある。そのことをタイムは雄弁に語っている。

    当然、近年は箱根駅伝ランナーたちが着用するシューズも注目を浴びるようになった。今回の2022年大会はどこのブランドが強かったのか。すでにさまざまなメディアが報じているが、詳しく振り返ってみたい。出場210人が着用していたのは以下の通りだ(目視でのデータ。カッコ内は前回の人数)。

    (1)ナイキ154人(201人)(2)アディダス28人(4人)(3)アシックス24人(0人)(4)ミズノ2人(3人)(5)ニューバランス1人(1人)(6)プーマ1人(0人)

    大型スポーツ店のランニングシューズ売り場には、ブルックス、ホカオネオネ、オン、アンダーアーマー、リーボック、サッカニー、スケチャーズなど多くのメーカーのモデルが並んでいるが、箱根駅伝ランナーが着用していたのはわずか6ブランド。しかも、上位3社が98.0%ものシェアを占めている。

    「アディダスとアシックスの反撃」3ブランドがパイを奪い合った

    前回はナイキが驚異的な数字を残している。210人中201人(95.7%)。今回は210人中154人(74.0%)とシェアを下げた。ナイキが持っていたパイをアディダスとアシックスが奪ったかたちになった。

    いや、「パイを奪い返した」という表現が正しいのかもしれない。なぜならナイキ厚底シューズが登場する直前の2017年大会はアシックスが67人(31.9%)、アディダスは49人(23.3%)の使用者がいたからだ。

    まずは前年4人から28人に飛躍したアディダスから見ていこう。主立ったところでは、2区と3区で区間記録を保持するイェゴン・ヴィンセント(東京国際大3年)と前回5区で区間賞を獲得した細谷翔馬(帝京大4年)がナイキから履き替えている。ヴィンセントは左足に痛みが出たこともあり、2区で区間5位の記録に終わったが、今回、5区を務めた細谷はかつて「山の神」と呼ばれた柏原竜二(東洋大OB)以来となる“連続区間賞”に輝いた。

    3区で区間歴代3位の快走を見せた太田蒼生(青学大1年)もアディダスを履いていた。

    太田はこの区間で1位を奪取し、そのままチーム往路・復路完全優勝に導いた。レース中、青学大の原晋監督は「ヒーローになっていくよ、ヒーローに!」と後方から声をかけ、実際にヒーローになった。

    ヴィンセントと太田は『アディゼロ アディオス PRO 2』(税込み2万6000円)、細谷は『アディゼロ タクミ セン 8』(税込み2万円)と思われるモデルを着用。いずれも5本指カーボン(もしくはグラスファイバー)が搭載されている厚底タイプだ。

    なおアディダスとユニフォーム契約を結んでいる青学大は太田以外の9人がナイキを履いていた。近年、アディダスを履く日本人ランナーで“顔”といえる選手がいなかったが、現役復帰時からナイキを着用してきた東京五輪陸上女子1万メートル代表の新谷仁美(積水化学)と契約。最近は新谷が広告塔の役割を担っている。今後は箱根駅伝で新たなヒーローになった太田がプロモーション活動に登場するかもしれない。


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