「多くの首脳らに囲まれたい?」習主席の狙いは
温室効果ガスの排出防止へも配慮が必要だ。北京の組織委は「人工降雪機に使う電力は再生可能エネルギーで発電する」と言っているが、どうにもこうにも環境負荷が大きそうだ。リモート会場へは、万里の長城が築かれた山腹に全長12キロのトンネルをぶち抜き、新幹線「のぞみ」などよりも速い時速350キロで走る高速列車を使って、選手や大会スタッフらを運ぶことにした。
そこまでして、雪のない北京で開催する中国政府の狙いは何なのか。これまでの習近平政権の動きを見る限り、「開催国として最多メダル獲得数を目指す」といったスポーツ本来の目的よりも、「習国家主席が多くの首脳らに囲まれて五輪開幕を祝う」という映像を世界各国に配信することに重きを置いている可能性がある。
「外交的ボイコット」は中国にとって確実に政治的、外交的なダメージとなっており、何かしらの総括を行うことに迫られたとみられる。そこで、中国は「国賓の五輪への招待」に関する理屈付けをした。「主催国やIOCが行うものではなく、各国それぞれのオリンピック委員会(NOC)が自国の首脳に対して出席を推奨するもの」だと説明したのだ。
「一帯一路」に協力的な国が招待されるか
この見解は、中国が国際連合に派遣している張軍国連大使が昨年12月2日に述べており、新華社をはじめとする中国のメディアが一斉に報じた。さらに、各国首脳らの訪中については「来る者は歓迎、去る者は追わず」「五輪の会期中、首脳らを呼んで行うイベントの予定は組まれていない」としている。
この説明だけを読むと、中国は「各国政府に対して、首脳の招待はしていない」という立場を述べているようだが、実際は、主要国の外交的ボイコットをよそに、より「大物」の訪中を期待している節がある。すでに、グテーレス国連事務総長の出席確約を取りつけただけでなく、ロシアとの蜜月を示すため、習主席が自らビデオ通話を通じて、プーチン大統領に対し開会式への招待を表明した。そのほか、隣国のカザフスタンへは、カシム・トカエフ大統領のもとへ中国の外交官が直接、招待状を届けたという。
冬季五輪は基本的に寒冷地でしかできない競技が多いという性格上、夏季大会が200を超える国・地域からの参加がある一方、冬季への参加は100に満たない。あるいは、冬のスポーツとはまるで縁がなさそうな国の首脳たちが開会式へと参集することも考えられる。その場合、多くは中国が推し進める「一帯一路」に協力的な国からやってくるだろう。
バッハ会長は「団結」を強調して米国を牽制?
加えて、中国と関係が深いことが取り沙汰されている国際オリンピック委員会(IOC)の動きも気になる。
「ぼったくり男爵」の異名をとるトーマス・バッハ会長は昨年4月、五輪憲章で定めたモットー「より速く、より高く、より強く」に「共に(あるいは、団結)」を加えたいと提案した。理事会の承認を受け、その後東京五輪開幕の直前に開かれたIOC総会で本決まりとなった。
変更決定をめぐり、日本のメディアはさしたる関心を示さなかったようだが、なぜか中国の複数の官製メディアがこの件について日本語でも積極的に報道していた。バッハ会長は、開会式での「長すぎた」演説でも、この「共に」を加えたことに関してわざわざ説明を述べている。
昨年の時点で、中国が「米国、英国などによる北京五輪への反発」をどう想定していたかは分からない。しかし、五輪のモットーに「団結」という文言を挿入しておけば、中国にとって団結を破る国が出てきたら、その時に「五輪の精神を踏みにじる」と糾弾できる。米国による外交的ボイコット正式発表の直前には、中国外務省報道官がやはりこれを引用。「米国がすべきことは態度を正し、より団結という五輪精神を実行すること」と指摘した。
伊、仏は外交的ボイコットに消極的
五輪を取り巻くボイコットといえば、1980年に開催されたモスクワ夏季五輪の例がある。これは、当時のソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻を是としない米国が同盟国に呼びかけ、選手の大会出場を含む、いわば「全面ボイコット」を行った。
その次、1984年の夏季大会は、米国のロサンゼルスで実施された。この時は、モスクワ大会の意趣返しとなり、旧ソ連をはじめ、旧東ドイツほか当時の東側諸国が出場をボイコットした。
北京大会の2年先には24年の夏季パリ大会、4年後にはイタリアのミラノ周辺で冬季大会がある。自国開催を控えるフランス、イタリアにとって、中国とその友好国らによってボイコットに踏み切られるのは避けたい。イタリアは先進7カ国(G7)の国で唯一「一帯一路」に協力的とあって、外交的ボイコットには消極的だ。一方のフランスは、先の東京大会へはマクロン大統領が訪日したが、さすがに北京へは中国の人権問題もあって訪中は難しい。スポーツ担当の閣僚を送る考えを示しているが、まだ正式には決まっていない。
かつての「ボイコット合戦」が起きるのか
その先には、外交的ボイコットに踏み切った米国・ロサンゼルスでの28年夏季五輪がある。6年先の米中関係はどうなっているのか予想できないとはいえ、両国間の政治的な駆け引きが収まっているとは思えない。
先の東京五輪では、日本の一般市民の間で「IOCが商業主義に傾き過ぎている」との批判も多かった。そして北京では五輪の場に「政治」が持ち込まれ、開催国の「国力誇示」の機会として使われそうだ。こうした歪(いびつ)な五輪は本来のスポーツの祭典からかけ離れ、競技で競いたい選手ら、そして戦う若者たちに声援を送る各国の人々を裏切ることにはならないのか。
「偉大な中国」を誇示しようとするあまり、大会が「選手や競技は二の次」になってはいないか。五輪憲章にある「より速く、より高く、より強く--共に」というモットーを忘れた北京五輪がどのような大会として出場選手や世界中の人々の記憶に残るか、習近平政権は改めて考えるべきだろう。
さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。
(ジャーナリスト さかい もとみ)






























