除斥期間の例外を認定 被害者救済の道広がる 強制不妊訴訟の大阪高裁判決

    旧優生保護法をめぐる一連の訴訟で、大阪高裁は22日、国に賠償を命じる初判断を示した。強制不妊を認めた旧法の規定と国の施策が、かねて社会に存在していた障害者への差別・偏見を「相当に助長した」と、1審よりも国の責任を厳しく認定。賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」を適用して原告の訴えを退けることは「著しく正義・公平の理念に反する」として不妊手術から20年以上が経過した被害者に対しても、大きく救済の道を開いた。

    大阪高裁前で「請求認容」などと書かれた紙を掲げる弁護団=22日、大阪市北区(前川純一郎撮影)
    大阪高裁前で「請求認容」などと書かれた紙を掲げる弁護団=22日、大阪市北区(前川純一郎撮影)

    そもそも旧民法が除斥期間を定めたのは、時間経過によって証拠が失われ、本来加害者ではない被告が反証できずに敗訴する結果を避けるためだ。被害者側にどんな事情があっても、20年という期間をもって一律に賠償請求権を消滅させることで、法的安定性を確保することが目的だった。

    旧優生保護法訴訟の一連の1審判決はこうした除斥期間の趣旨を踏まえ、障害者側の事情にかかわらず、20年の経過をもって賠償請求権を否定してきた。

    もっとも、過去に最高裁で除斥期間の適用が除外された事例が2つだけある。

    一つは当時義務だった天然痘予防接種の後遺症で心神喪失となり、後見人がつくまでに20年以上が経過した訴訟。もう一つは殺人事件の被害者遺族が、加害者による犯行を知らないまま26年が経過したケースだ。この2つの事例のように、相手方の不法行為そのものに起因して提訴することが困難になった場合は、一律に除斥期間を適用することは「正義・公平」に反するとされた。

    この例外を踏まえ、旧優生保護法訴訟では、原告が20年以内に裁判所に訴え出ることができなかった理由が、旧法の存在や国の施策そのものに直接的に起因するかが争点になった。

    この点について、1審大阪地裁判決は、障害者に対する社会的な差別や偏見が訴訟を起こすまでの制約になったと認めたものの、差別や偏見には歴史的・社会的要因が複雑に影響しており、国だけが意図的にそうした状況をつくったとはいえない、と判断していた。

    しかしこの日の高裁判決は「劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法がある」と記述した教科書が、かつて学校で使用されたことなどを例に「旧法の存在と国の施策が障害者への差別・偏見を固定化した上、これを相当に助長した」と指摘。除斥期間内に提訴ができなかったことに、国の不法行為が大きく影響していると判示した。

    その上で、除斥に近い概念である「時効」の停止要件を定めた民法158~160条の「法意」に照らせば、例外として賠償請求権が認められると認定した。

    時効停止の規定から判決を導いた点では先の2例と同じだが、今回の判決は根拠となる条文を特定していない。成蹊大学の渡邉知行(ともみち)教授(民法)は「被害者を広く救済する画期的な判決だ」と評価する。

    令和2年に施行された改正民法は、不法行為について除斥期間の概念を排し、20年は「時効」と明記。除斥期間が画一的な権利消滅を規定していたのに対し、時効は停止したり加害者が時効成立を主張することを「権利乱用」として退けたりでき、被害者救済が重んじられた。渡邉氏は「大阪高裁はこうした改正民法の趣旨も踏まえ、除斥期間の例外を緩やかに解したのではないか」と分析した。

    国会議員の過失も認定 強制不妊訴訟で国に初の賠償命令 大阪高裁


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