震災もコロナ禍も…失業、収入減救う「キャッシュ・フォー・ワーク」

    東日本大震災の生活復興支援に用いられた仕組みが、コロナ禍で経済的な打撃を受けた働き手の支援に使われている。被災者が自ら被災地支援に参加して働いた「キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)」という手法で、当時は「仮設の仕事」と呼ばれ、仕事を失った被災者に仕事と収入、やりがいをもたらした。コロナ禍では、新たに職業訓練も兼ねて取り組みが広がり、発展的に受け継がれている。(津川綾子)

    「私と同じような立場の人の役に立てていることがうれしい」

    仕事を失い、職業訓練を受けているというのに、中村歩さん(26)=仮名=は、明るい表情でそう話した。

    中村さんは昨年4月、CFWに応募。動画編集を初歩から学びながら、同じく求職中の若者向けの動画教材も作成した。

    参加したのは、困難を抱えた若者らの就労支援などに取り組む「キズキ」(東京)が令和3年2月~今年1月に行ったプログラム。コロナ禍の影響で失業や減収に見舞われた10~30代の14人が、半年間、有給で動画編集などの訓練を受け、そのスキルをいかして他の就労移行支援事業所などの支援も行った。

    意欲と希望

    CFWが助けるのは収入面だけではない。失業や減収で落ち込んだ参加者の気持ちも救っていた。

    以前は、「とりあえず生きていくため」と、接客などの日雇いで働いたという中村さん。コロナ禍の初期、そうした仕事が激減し、経済的なピンチから応募したのがCFWだった。

    ところが参加してみると、訓練で作った教材は、ほかの同世代の職業訓練に役立っていた。次第に仕事への意欲がよみがえり、今では自分のメディアを作りたい、と希望も持てた。

    コロナで新展開

    「働いて人に『ありがとう』と言われることで、それが自信やモチベーション(やる気)になる。仕事や暮らしの基盤が揺らいだ人の自尊心の回復につなげることにCFWの価値がある」と話すのは、関西大学の永松伸吾教授(公共政策)。東日本大震災発生後、被災地の復興でCFWの活用を説いた国内の第一人者だ。

    東日本大震災時のCFWでは、被災した人々が浸水家屋の泥のかきだしや片付け、仮設住宅の住民支援などを行い、自ら故郷の復興にも携わった。これらは緊急かつ一時的な「つなぎの仕事」であったことから、CFWに「仮設の仕事」とあだ名がついた。

    ところがコロナ禍のCFWは、そんな仮設の仕事でつなぐ間に、次のステップにつながる職業訓練を行う点で発展を見せた。

    更なる課題解決に

    コロナ禍のCFWは、原資に10年以上取引がない休眠預金を活用。一般財団法人「リープ共創基金」(東京)が事業者の選定にあたった。

    初回(2年9月~4年1月)は、前出のキズキのほか、コロナ禍で打撃を受けた大学生らの就労支援を行うNPO法人「G-net」(岐阜)など13団体のプログラムに、コロナ禍で失業や収入減に見舞われた216人が参加した。

    職業訓練まで盛り込む形で実施されたコロナ禍のCFWについて、永松さんは「震災後のCFWから大きな進化を遂げた」と話す。

    リープ共創基金によると、今年開始の第2弾は、12団体がプログラムを実施。訓練後の「働く場所づくり」までを含めた支援を計画する。

    「コロナ禍で消えた仕事、生まれた仕事がそれぞれある。生まれた仕事の人材不足は社会課題だ。そうした社会のニーズに応じた仕事と人材をつなげることを目指したい」とリープ共創基金の代表理事、加藤徹生さんは話している。


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