ロシアによるウクライナ侵攻は、民間人の犠牲をいとわない無差別攻撃にエスカレートしている。バイデン米大統領はプーチン露大統領を「戦争犯罪人」と非難。国際社会もロシア排除の動きを加速させる。防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は「誤算による苦戦を強いられ、追い込まれている」と述べ、停戦協議の行方は不透明だと指摘した。プーチン大統領暴走の背景と今後について聞いた。
■過剰な国防意識
千年余りのロシアの歴史の大半は有事だ。ナポレオンやナチスの侵攻など常に外敵から脅威を与えられてきた。
そのため国境を守るだけでは安心ができず、国境の外側に、自らの縄張りともいえる「影響圏」がないとだめだという独自の安全保障観がある。200%の安全保障を追求する過剰な防衛意識だ。
冷戦後、米国が率いる軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)がミサイル防衛システムを東欧に配備するなどし、ロシアに追い込みをかけているという被害妄想もある。
ウクライナがNATOに入ると敵対国と国境を接することになる。ロシアの起源は「キエフ公国」とされ、アイデンティティーはウクライナの首都キエフにある。日本でいえば京都や奈良。その地が米国の軍事同盟に入ることなどありえないという考えだ。
■「裸の王様」に
2014年のクリミア半島併合は簡単に成功した。今回も2週間くらいで、ウクライナのゼレンスキー政権はあっけなく降参すると踏んでいた。
しかし、クリミア侵攻以降、ウクライナは欧米の支援を受けて予想以上に軍事力を高めていた。そこを見誤った。旧ソ連国家保安委員会(KGB)の幹部が軟禁され、正しい情報を上げていたのか、という問題になっている。都合の良い情報だけが上がり、プーチン氏は「裸の王様」のようになってしまっている。
キエフには200万人の市民が残っている。どの程度軍事的圧力を加えたら降伏するか、外交や停戦協議で腹を探っている。
協議が進展したという報道もあるが、今は互いの主張を並べているだけなので、すぐに妥結や停戦につなげるのは難しいのではないか。
ウクライナ側が抵抗すれば地上戦になる。第二の都市のハリコフでは市街戦になりつつある。キエフでも当然それが予想される。
この先も思うようにいかないとなると追い込まれてしまい、無差別でさらに殺傷能力の高い兵器を使うかもしれない。
■引くに引けぬ悪循環
まだ大多数のロシア人は「ゼレンスキーはネオナチだ」というプロパガンダを信じているとみられる。
しかし、ロシア国営テレビの生放送のニュース番組で、編集者が反戦のプラカードを持って乱入したのはインパクトのある話で、情報統制に対する反発が足元に及んでいることを示す。
若い人はSNS(会員制交流サイト)で情報を得ているが、地方の人や高齢者も、昔の統制されたソ連時代に戻っているような違和感を覚え、肌感覚で「これはおかしい」となるはず。
長期化するほどロシア側の被害者も増え、膨大な戦費がかかる。中長期的にはプーチン政権はもたない、とみている。
ゼレンスキー政権の打倒までは引けないが、キエフ陥落に至れないところに、プーチン氏の焦りといらつきが感じ取れる。短期に事を進めようとすればするほど、無差別で激烈な攻撃をせざるを得ない悪循環に陥っている。(聞き手 川西健士郎)
































