デジタル羅針盤

    ARなど使う「不動産テック」で好みの住居に

    巣ごもりの時間が長かったせいもあり、自分のライフスタイルに合わせた機能を住居に求める動きが増えてきた。リモートワーク用の書斎をはじめ、音楽を楽しむ完全防音室、趣味の品や道具を置く〝秘密基地〟など、欲求は多岐にわたる。間取りも3LDKなど定型のものではなく、好みに合わせて設計できるものが求められる。

    ニーズが多様化しており、企業側もテクノロジーを活用した新たなサービスに知恵を絞る。不動産業界で、業務の効率化だけではなく、サービスの向上にテクノロジーを活用する取り組みは「不動産テック」と呼ばれる。不動産業の売上高は令和2年時点で44.3兆円といわれ、事業社数も年々増加しているが、不動産テック市場は年間10%以上の成長率で数年後に1兆円を越えると予測される。

    注目される取り組みの一つが、AR(拡張現実)の活用だ。パソコン上などバーチャルな空間で好みの間取りを設計し、家具や家電のデザインや置き場をシミュレーションすることができる。とはいえ、頭の中のイメージを元に、間取りやインテリアを具体的に決めていくのは簡単ではない。どのような空間にしたいかを伝えれば、事例を紹介したり設計してくれたりするサービスもある。間取りを半完成の状態で提供する物件も出始めた。顧客としては好みの住居をつくり上げる楽しみと満足感が生まれる。

    消費者の購買動機が「モノ」から「コト」に変わってきたといわれて久しい。不動産に応用すると「こんな物件いかがですか」から、「こんなライフスタイルを楽しんではどうですか」だといえる。SNS(交流サイト)などを通じて新たなライフスタイルを提案し、売り上げを伸ばす企業も増えてきた。どの業界にも共通するが、単に最新の技術を導入すればよいわけではない。顧客ニーズの変化に先んじて、どのようなサービスを提供するかを決めることが重要だ。

    (デジタル・コネクト代表取締役 小塚裕史)

    こづか・ひろし 京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、平成31年にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタルトランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。57歳。兵庫県出身。


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