『日本建築史講義 木造建築がひもとく技術と社会』海野聡著(学芸出版社・3300円)
日本建築の通史で何か一冊、というと、まず挙がるのは昭和22年初版刊行の太田博太郎『日本建築史序説』(彰国社)だろう。長らく版を重ね、平成21年の増補第三版がなお「現役」だ。かみ砕くのも容易ではない「序説」の後を襲ったのは、石ノ森章太郎『マンガ日本の歴史』第1巻~第48巻(平成元~5年、中央公論社)の巻末解説「建築の歴史」をまとめ、加筆再構成した藤井恵介・玉井哲雄『建築の歴史』(中央公論社、平成7年)。建築の背景をなす歴史の流れを意識した解説が、一般読者の理解の助けになった。
そして、彼らの学統に連なり、近年精力的に日本建築の通史、概説書を刊行する海野聡の新著である本書で、令和の通史アップデートも完了した感がある。
本書は平成31・令和元~2年度に、東京大学で著者が行った「都市建築史概論」「日本建築史」「日本住宅建築史」の講義から20回分をまとめたもの。要素や歴史的事項の羅列に終わらず、副題にあるとおり「木造」を根本において、宮殿、社寺、住宅の構造や様式がいかに発展し、変化を駆動する「理由」である、建築内部の人間や仏像、そこで営まれた儀式、芸能、生業と関わっていたかを生き生きと記述する。
著者の研究テーマでもある、造営組織や技術者など、建築をめぐる社会システムについての言及もあり、建築史の中で見落とされてきた新しい視座が呼び込まれている。
本書が「How(いかに)」を軸に木造の建築史をたどるものだとすれば、著者が平成30年に刊行した『建物が語る日本の歴史』(吉川弘文館)の軸は「Why(なぜ)」。建築史というより、建築を手がかりに読み直す日本史、といった趣向なので、ぜひ両者を往復しながら、日本と建築の歴史を見渡してほしい。
『森と木と建築の日本史』海野聡著(岩波新書・990円)
木造へのまなざしは、材料となる木、その供給源である森へ至る。世界に冠たる巨大寺院の建築は、古代日本に森林破壊をもたらしもした。切り出しから輸送、加工、販売、購入、建築、そして保全、真の共生に至るまで、列島で人と木とが織りなしてきた、一筋縄ではいかない、長く複雑な関係を描き出す。
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〈はしもと・まり〉 神奈川県生まれ。新聞、雑誌への寄稿の他、NHKの美術番組を中心に日本美術を楽しく、わかりやすく解説。

































