その結果、SPARC64VIIIは、クロック周波数2ギガヘルツで、毎秒128ギガ(1ギガは10億)の演算性能を持ちながら、消費電力は58ワットに抑えることに成功した。IBMの主力MPUに比べて、演算性能は2分の1ながら消費電力はわずか29%で、電力当たり性能は2倍近く差を付けた。この省電力技術がなければ8万個以上のMPUを同時に動かす「京」のシステムは「成り立たなかった」(井上さん)。
1京の演算速度は、毎秒1兆回演算するコンピューターを1万台同時に動かした能力。富士通は「地球上の全人口70億人が24時間不眠不休で毎秒1回計算して17日間かかる計算量をたった1秒でやってのける」と説明する。理研では、地球変動予測や設計プロセスの革新、生命化学・創薬、新物質・エネルギー創成といった幅広い分野で「京」の活用を進め、日本の国際競争力向上への寄与に期待している。
09年には事業仕分けで、民主党の蓮舫参院議員が「なぜ世界一を目指すのか、2位ではだめなのか」と質問し、「京」プロジェクトの予算が削減された。ノーベル賞学者などが猛反発して新たな予算の枠組みが復活したが、技術陣も冷や汗をかいた。
東日本大震災では、半導体子会社の富士通セミコンダクターとその製造子会社の5工場が被災。なかでも宮城工場はSPARC64VIIIの重要な組立工程を担っていたが、「工場の復旧状況が世界一を狙えるかどうかに大きく影響する」(本間秀範工場長)ことから、総動員で復旧に当たり、10日後には一部操業、1カ月後には通常操業にこぎ着けた。