日産が三菱自を事実上、傘下に収める資本業務提携は、燃費データの不正問題で窮地に立つ三菱自の“救済”だけが目的ではない。軽自動車の生産を三菱自に委託する日産にとっても、三菱自の経営が行き詰まれば、戦略転換が避けられないからだ。ただ、三菱自の燃費不正問題は全容解明にまだ時間がかかる状況にある。提携により日産は大きなリスクも抱え込むことになる。
「燃費データ不正問題で失われた(三菱自の)信頼回復に力を注ぐ」
日産のカルロス・ゴーン社長は12日の記者会見で、三菱自の経営立て直しを全面的に支援する考えを表明した。
日産が三菱自を傘下に収める狙いの一つに、三菱自による軽自動車の生産・供給の継続がある。日産の軽自動車事業は国内販売の4分の1を占めるが、自前の生産拠点は持っていない。燃費不正問題で三菱自が軽自動車から撤退する事態となれば、新たな調達先を探すか自社工場を新設するか、という選択を迫られる。いずれも少なからぬ資金が必要となり、事業計画の見直しは避けられない。
だが、軽自動車は国内専用規格の製品だけに、人口減少で国内市場が縮小する中、日産が投資に踏み切るリスクは大きい。このため、三菱自への出資で「軽の生産継続権を買った」(アナリスト)との見方は少なくない。
また、中国以外のアジア販売が手薄だった日産にとっては、東南アジアに強みを持つ三菱自の販売網を取り込むことで、「シナジー(相乗効果)効果が期待できる」(ゴーン社長)という。日産・ルノー連合と三菱自の2015年の世界販売台数は合算で959万台にのぼる。三菱自との提携により首位のトヨタ自動車(1015万台)の背中も見えてくる。
一方、三菱自は燃費不正問題の発覚後、国内販売が急減しており、4月の軽自動車の新車販売台数はほぼ半減した。さらに、今後は問題のあった車両ユーザーや関係企業などへの補償が膨らむのが確実だ。今年3月末時点で約4600億円の現預金を持つ三菱自は、一定の財務余力を持つ。
ただ、リコール隠し後の経営危機の際、同社を支援した三菱重工業など三菱グループ各社は、度重なる不祥事を受け支援に消極的だ。三菱自は経営のリスクに対処するためにも早期に日産という“後ろ盾”を確保する必要に迫られた。
両社の提携は、国内外の業界再編の呼び水にもなり得る。大手のトヨタ自動車や日産、ホンダは単独で生き残れる経営体力があるとされる。しかし中堅メーカーが、環境や自動運転の技術などを自前で開発するのは極めて困難だからだ。
日産と三菱自は資本・業務提携について、年内の実現を目指す。ただ、日産が今後進める三菱自の経営状態の査定作業で、燃費不正問題による損失が想定以上に膨らむ事態となれば、“白紙撤回”となる懸念も残る。(今井裕治)