しかし、この一連の問題では、人命より重い何かを守ろうとした構図が明らかにある。それが下らない自尊心であったとしたら許すべき範囲を逸脱している。三菱自動車の闇はあまりにも深すぎる。
ひとりの人間として、こうしたことが自分の会社で起きた時に、何ができるのかを考えておかねばならない。ひとつは内部告発である。実際三菱のリコール隠しも、匿名の内部通報者から多岐にわたる詳細な情報が運輸省にもたらされていた。永の年月勤め上げて来た会社がこれ以上劣化していくことを防ぐには、理想的な回答だろう。本当に愛社精神があるなら、その更正に尽力すべきだ。徹底的な自己否定を内部から行うべきなのである。しかし、それは誰にもできることではない。強靱な精神の持ち主にのみ可能な選択肢だろう。
もしあなたが、そうした絶望的な会社の状況を知ってしまったとしたら、そして内部告発者として戦うことが難しいなら、現実的な答えは退職願を書くことだ。企業にいると、自分と企業を同一視しがちだが、間違ってはいけない。それは決して同一ではない。あなたの人生はあなたのものだ。心安らかに棺桶のふたを閉じられるチャンスを失ってはいけないと筆者は強く思う。一番大切なのは、恥じない人生を生きることではないか。
(池田直渡=文 宇佐見利明=撮影)(PRESIDENT Online)