「月額980円」読み放題Kindle 出版社の福音となるか? (8/8ページ)

 将来的にこの分配方式がすべてのKindle Unlimited本に対して適用されることになれば、出版社の電子書籍の収益も随時変動することになる。海外のKDPユーザーの中には、Kindle Unlimitedの毎月のページあたりの分配単価をブログで報告している人がいるのだが、10%程度の変動は普通に生じているようだ。

 Kindle Unlimitedという新しいサービスは、出版社に対し、変動相場のような“数字が読めない”ビジネスをもたらす可能性があるということは知っておくべきだろう。

 Kindle Unlimitedの普及により、新しい著者が育たない可能性も…

 ここまでは、大手の出版社への影響について論じてきたが、個人の著者や弱小出版社にとってKindle Unlimitedは、どのような影響をもたらすのだろうか。正直言って現時点では判断がつかない。

 紙の書籍の場合、再販売価格維持制度と出版取次の仕組みによって一定数の新刊の配本が確保されており、それにともない著者にも印税が入る仕組みになっている。しかし、電子書籍にはこうした優遇措置は存在しない。筆者も紙の本と電子書籍を大手出版社から出しているが、新刊が売れようが売れまいが一定の印税が保証される紙とは異なり、電子書籍は、冷酷なまでの実績主義による収益分配だ。本が売れなければ、筆者はほとんど収入を得られない。

 そう考えると、Kindle Unlimitedのようなサービスによって電子書籍の存在感が増すのも善し悪しといえる。印税保証や新刊の配本の仕組みが著者の生活や弱小出版社の経営に寄与し、良質な書籍や著者を生み出すためのインキュベーターとしての役割を果たしているとするならば、今後、電子書籍の存在感が増せば増すほどに、現状の形態のまま出版事業を続けることが難しくなってくるのは確実だし、新しい著者が育たない可能性もある。Kindle Unlimitedは、そのパンドラの箱を開いたということになるのだろうか。

 (文=山崎潤一郎)(PRESIDENT Online)