
岩谷産業が1969年に発売した業界初のカセットコンロ「カセットフー」(写真提供:岩谷産業)【拡大】
そうした家庭の食卓の風景を一変させたのが、岩谷産業の卓上ガスコンロ「カセットフー」だ。上述したような課題を感じていた同社創業者の岩谷直治社長が発案、1969年に製品化にこぎつけた。ちなみに、岩谷氏は戦後、日本の家庭向けにLPガス(プロパンガス)を初めて販売した人物でもある。
岩谷産業のカセットコンロは、その後、競合が相次いで市場参入してくるも常に先頭を走り続けた。現在、カセットコンロ関連市場は年間約240万台の販売規模で、そのうち65%のシェアを岩谷産業が占めている。さらにカセットフーだけでも約70万台売れているのだ。
なぜ今なお岩谷産業の商品は売れ続けているのだろうか。そこには単なる先行者利益にとどまらない、消費者の“かゆいところに手が届く”ような、きめ細やかなモノづくりの軌跡があるのだ。
殺虫剤をヒントにガスボンベを小型化
業界で初めて岩谷産業が開発したカセットコンロの着想になったのは、スウェーデンの燃焼器具メーカー、プリムス(PRIMUS)が製造していた登山・アウトドア用のガスバーナーだった。元々、ヨーロッパでは登山がスポーツとして深く根付いていて、例えば、アルプス山脈で登山者が煮炊きしたり、暖をとったりする手段としてガスを燃料として使う習慣があった。