
岩谷産業が1969年に発売した業界初のカセットコンロ「カセットフー」(写真提供:岩谷産業)【拡大】
それを目の当たりにした創業者の岩谷氏は、持ち運び可能なこの製品とコンロを一体化できないものかと考えた。そうすれば、ホースを引かなくても食卓の上で手軽に鍋やすき焼きができる。
そこで取り組んだのがガスボンベの小型化である。それまで家庭でよく使われていたガスボンベは、小さいと言っても重さが1キログラムあるだるま式のものだった。しかも使用するには、販売店でガスを充填(じゅうてん)してもらい、家に持ち帰って、ホースにつなぐという手間がかかったのだ。その煩わしさから消費者を解放するために、既にガスが充填してあり、使い捨てできるガスボンベを作ろうとしたのである。ヒントにしたのが缶の殺虫剤だ。それから現在までガスボンベの形はほぼ変わっていない。
実は商品のアイデアに匹敵するくらい岩谷産業にとって大ごとだったのは、ビジネスモデルを一変させたことである。ガスを扱う会社にとって、ガスは容器に充填して顧客に販売し、空になった容器を回収して、充填、再び販売することで商売が成り立っていた。「当時のこの常識から考えて、容器は使い捨てで、回収しないというのは、相当大きな発想の転換が必要だったようです」と、岩谷産業 総合エネルギー事業本部 カートリッジガス本部 CS推進部の福士拡憲担当部長は述べる。