今西学長は「うちの学生に聞くと『レース活動があるから入りました』と答える子は多い」と手応えを口にする。今では学生の15%が入学動機に「レース活動の存在」を挙げるそうだ。学生にも直接話を聞いてみた。一級自動車工学科3年の伊藤瞭我(りょうが)さんは「オープンキャンパスの時にこの活動に参加させてもらいました。ピットに入れるのが魅力的で、プロスタッフの近くで整備を見たかったので志望しました」。同学科2年の長屋賢利(まさき)さんは「最初に行ったレースでタイヤ交換や給油作業をやらせてもらえたのが刺激的でした。今回が3回目の参加ですが、この活動を就職に生かしたいです」と入学理由を教えてくれた。
中村副社長に届いた一通の手紙
日産では整備士不足の対策として、待遇面や労働環境の改善を販売店側に強く訴えているという。以前、中村副社長が整備士の母親からもらった手紙にこう記してあったそうだ。
「日産の偉い人は私の息子の苦労を知っているのでしょうか」
そこには、土日も含めて毎日真っ黒になるまで働き、父兄参観や運動会にも参加できない息子の苦労が綴られていた。日産はこれまで客を迎える全国のショールームの改装を優先してきたが、今後はバックヤードにも冷暖房の完備を進めるなど、整備士が働きやすい環境づくりに注力するという。ショールームと整備工場の間をガラス張りにして、客が自分のクルマの様子を確認できる販売店にも投資しているそうだ。中村副社長は「自分の仕事ぶりを見られることで緊張感が生まれ、それが整備士の誇りや自信につながる」と期待する。
受け入れ体制が整えば、整備士を志す若者は今後もっと増えるだろう。すでに日産販売店への就職が決まっている高尾涼太さん(一級自動車工学科4年)は、客と会社の両方から信頼される人材になりたいという。「会社からは作業が早くてミスをしない、お客様からは正直、親切、丁寧な対応で信頼されるようになりたいです」。
自動車整備は私たちユーザーの安心・安全に直結するとても重要な仕事。EVや自動運転の発展に伴い自動車技術は常に高度化しており、エンジニアに求められる技量や知識もどんどんと難易度が上がっている。日産・自動車大学校で揉まれて育った若い整備士たちが今後のクルマ社会をどう支え、どんな変化をもたらすのか、非常に楽しみだ。(SankeiBiz 大竹信生)